ハリウッド映画にはよく、ド派手な爆発シーンが登場します。
そこでは必ず、空気を震わす爆発音に、急速に広がる炎の雲、オレンジ色に燃えるメラメラとした残り火が見られます。
「しかし、実際の火薬はそのようには爆発しません」と言うのは、イギリスの科学YouTuberのトム・スコット氏(チャンネル:Tom Scott)です。
映画の撮影では、爆発がド派手に見えるようにある工夫をしているのだとか。
一体、どんなトリックを使っているのでしょうか?
爆発シーンをド派手にするには?
動画の最初にスコット氏が爆発させたのは、1キロの「セムテックス爆弾」です。
その爆発は音がカラッと乾いており、灰色の煙がパッと広がるだけで、メラメラとしたオレンジ色の炎は残りません。
セムテックスは、かつてのチェコスロバキア共和国(現・チェコ共和国)で開発された高性能プラスチック爆弾のひとつです。
廃ビルの破壊や軍事利用もされましたが、セムテックスはおもにテロ利用で有名となりました。
探知が難しいことや、比較的容易に手に入り、加工もしやすいこと、さらにわずか250グラムで飛行機を爆破できる性能からテロ使用に拡大し、今では「テロリストのC-4」と呼ばれます。
セムテックスは「ペンスリット(PETN)」という高性能爆薬をベースにしており、威力や殺傷能力を重視したものです。
ペンスリットは、熱に対して鈍感で、自然分解しにくく、爆発威力が強いといった特徴をもち、軍事用に利用されます。
そのため、視覚的には地味なくせに威力だけが非常に強いという、映画にはまったく不向きな爆薬なのです。
そこで映画の撮影では、セムテックスの使用は論外で、威力の弱い爆薬を使います。
爆発物専門家のスティーヴン・ミラー氏によると「よく使われるのは、ケロシン、ペトロール、ディーゼルなどを混ぜた液体燃料」とのこと。
ペトロールなどの液体燃料は、着火した火を取り込むように広がるので、黄色い炎や黒煙が大きな視覚効果を生みます。
それをプラスチックバッグの中に入れて、複数並べたモルタル製ポッドの前に別個に貼り付けます。
モルタルを背中合わせに並べて盾にすることで、燃料を爆発させたい方向に飛ばすこと、つまり形の安定したキレイでド派手な爆発が可能になるのです。
また、カメラに映らない場所には燃料を置きません。
例えば、カメラに向かって、前方と左右には燃料をセットしますが、その奥側は不要です。
そして最も大事な点は、遠距離から点火するためのセッティングです。
誰かがシーンごとにマッチで火をつけていては、撮影の度に死人が出てしまいますからね。
ミラー氏によると、モルタルには、燃料とは別の点火薬(だいたい10グラム以下)をパックにしてセットしておくとのこと。
点火薬にはプラスチック製のコードがつながれ、その中心部には火をリレーできるように少量のPETNがまぶされています。
あとは安全な場所からスイッチを押せば…
ハリウッド式のド派手な爆発の完成です。
参考文献
This Is Why Real Explosions Don’t Look Like Those in Hollywood Movies
提供元・ナゾロジー
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