経済発展が著しい中国は、2019年にはついに世界富裕層の上位10%が住んでいる数がアメリカを超えて、世界最多となりました。

またアフターコロナにおいて、富裕層が世界の旅行需要を回復させる牽引役と言われており、特に新型コロナウイルスの早期封じ込めに成功した中国からの富裕層は、世界の観光業界に注目されています。

本記事では、中国富裕層の概要や訪日動向、インバウンド需要の取り込み対策について紹介します。

目次

  1. 中国が富裕層の数が世界第1位に
    1. 中国は世界で富裕層が1番多い国、2019年に米国を越え
    2. 中国の富裕層の特徴は?IT企業の創業者が多数か
  2. 訪日中国人観光客の旅行トレンド/中国富裕層の訪日実態も紹介
    1. 訪日観光客数1位の中国、個人旅行が人気
    2. 中国富裕層の訪日動向は?市場規模や旅行傾向も
  3. 富裕層はアフターコロナで最注目、対応すべきポイントは?
    1. アフターコロナのインバウンドは富裕層に注目
    2. 問われる富裕層のニーズへの対応、ポイントは「志向」の把握
  4. 今後のインバウンドで関心を集める中国富裕層の訪日観光客

中国が富裕層の数が世界第1位に

2019年にスイスの金融大手クレディ・スイスが世界の富裕層上位10%が暮らす人口で、初めて中国がアメリカを上回ったと発表しました。

中国における富裕層の人数や特徴について紹介します。

中国は世界で富裕層が1番多い国、2019年に米国を越え

世界有数の金融機関Credit Suisse(クレディ・スイス)の「Global wealth report 2019」で、世界の富の保有者の上位10%を占める人のうち1億人が中国で、9,900万人がアメリカで暮らしていることが明らかになりました。

中国が初めてアメリカを抜いて世界一もっとも富裕層を有する国となったのです。

翌年の「Global wealth report 2020」では、2019年末時点、中国の世界の富の保有者の上位10%を占める人数は1億人を超えたと発表されました。

またアメリカに次ぎ、580万人の100万ドル(約1億861万円)以上の資産を保有する「ミリオネア」と21,100人の5,000 万米ドル以上の富を持つ富裕層を有していることがわかりました。

中国における富裕層の人数が増え続けている一方、人口の割合からみると、中国総人口のわずか7%が世界の富の保有者の上位10%で、0.4%がミリオネアです。

それに対し、アメリカにおいて世界の富の保有者の上位10%が総人口の29.6%、ミリオネアが6%を占めています。

つまり中国では、ごく一部の人口が富裕層であることがわかります。

中国の富裕層の特徴は?IT企業の創業者が多数か

そこで気になるのが、中国国内で独占的に富を握る富裕層の顔ぶれです。

中国の企業家の資産額トップ100人のランキングを示す「2020年胡潤百富榜」によると、トップはアリババの創業者として知られる馬雲氏で、その総資産額は4,000億人民元(約6兆7,000億円)に達しています。

2位はネット大手「テンセント」CEOの馬化騰氏、8位は中国大手ポータルサイト「網易」の創業者である丁磊氏とeコマース企業「拼多多」の黄峥氏と、上位10位のうち4名はIT系企業出身者が独占していることがわかりました。

訪日中国人観光客の旅行トレンド/中国富裕層の訪日実態も紹介

中国人観光客の旺盛な購買行動を指す「爆買い」という言葉に象徴されるように、中国人観光客は訪日観光客の中でも消費額が高いことで知られます。

一方で、訪日回数を重ねる人が増える中で、モノ消費からコト消費へと訪日中国人観光客の消費スタイルが変化しているとも指摘されています。

ことに富裕層においては、地域ならではの芸術や自然体験を希望する声が多いなど、コト消費への移行が顕著なことが各種調査で浮かび上がってきています。

そこでここでは、中国の富裕層を引き込むために知っておきたい、市場規模や旅行トレンドなどのインバウンドデータについて解説します。

訪日観光客数1位の中国、個人旅行が人気

日本政府観光局(JNTO)によると、新型コロナウイルス感染症拡大の影響前の2019年の訪日外客数において中国からの訪日観光客数が959万4,000人となり、国別で2位以下を大きく引き離して1位になっています。

中国からの訪日観光客と聞くと、団体旅行の大型バスで百貨店や家電量販店などに乗り付けて大量消費をしていくイメージがあります。しかし、観光庁の「訪日外国人消費動向調査」によれば、中国市場では個人でいく海外旅行「FIT」化が進み、2010年は団体旅行と個人旅行が半々だったところ、2019年には個人旅行が66%に上りました。

実際、中国では旅行者が自分の関心に沿ったテーマを設定する「深度遊」が流行っており、観光名所を多く回るより、旅先でなければ得られなかった体験や知識を楽しみたい人が増えています。

この現象は旅行商品の予約にも反映されています。

中国最大手のオンライントラベルエージェンシーである携程(Trip.comグループ:2019年10月まで、中国国内では「Ctrip」の名称で展開)が行った、2020年の春節休暇のトレンド調査によれば、旅行者のニーズに合わせてオーダーメイドの旅行商品「カスタマイズツアー」が年々人気になっています。

また同調査では、春節休暇中に行きたいとされた中国周辺国の1位は日本であり、「雪見」「温泉」「ウィンタースポーツ」などの体験型商品が人気になるとされており、ここでもコト消費に対する需要の高さが裏付けされた形になっています。

中国富裕層の訪日動向は?市場規模や旅行傾向も

2019年、959万人の訪日中国人の2.2%、すなわち18.1万人が富裕層であり、訪日客全体の0.7%しかありませんでした。

しかし一人の消費単価が高く、合計3,864億円の消費額を生み出しました。

これは訪日香港人の全体消費額を上回り、訪日中国人全体の23.9%、訪日客全体の9.7%を占めています。

米国追い抜き、中国人富裕層が1億人突破。もはや「爆買い」は古い、コロナ後の旅行トレンドは
▲デービッド・アトキンソン「第37回観光戦略実行推進会議 提出資料 コロナ後の観光戦略」より、編集部作成(画像=『訪日ラボ』より引用)

また、胡潤研究院とILTM Chinaが共同で発表した「The Chinese Luxury Traveler 2018」では、2018年に中国富裕層でもっとも人気のある海外旅行テーマは以下のように示しています。

「世界一周」や「極地探検」といった定番のラグジュアリー旅行が上位を占めている一方、芸術人文、アドベンチャーツーリズム、美食などのテーマ旅行も好まれています。

順位 旅行テーマ 回答率
1 世界一周 37%
2 極地探検 22%
3 子連れ旅行 19%
4 セルフドライブ 17%
5 芸術人文 15%
6 アドベンチャーツーリズム 14%
6 美食・美酒 14%
8 海島・ビーチリゾート 13%
9 自己学習 9%
10 ウェルネスツーリズム 8%

胡潤研究院とILTM China「The Chinese Luxury Traveler 2018」 より、訪日ラボ編集部作成

またILTM Chainaによる2019年中国富裕層の旅行トレンドからも、中国富裕層は「本物」思考が強く、贅沢かつ繊細なサービスを追求する一方、旅行先でしか体験できないことも楽しみたい傾向がわかります。

また年齢層によって志向も変化し、若い人はユニークな体験や芸術関連に対して特に熱心であることも明らかになりました。

  1. 中国の富裕層は細部にこだわる、贅沢に精通している鑑定家
  2. 彼らの旅行の目的は純粋な贅沢ではなく、地元の体験・本物の体験も追求
  3. フルサービスパッケージというよく構成された旅行プランを提供する必要がある
  4. 若い富裕層はユニークな体験、芸術関連について熱心
  5. 多面のマーケティング手法でアプローチ。WeChat、ショールームなどでファンを育成
  6. 飲食も旅行の一部。購入できない体験を提供する必要がある

富裕層はアフターコロナで最注目、対応すべきポイントは?

なぜ富裕層の誘致が重要なのか、また富裕層をターゲットとした際に対応すべきポイントについて紹介します。

アフターコロナのインバウンドは富裕層に注目

現在新型コロナウイルス感染症の影響で、世界的規模で観光業界は激しい逆風にさらされており、日本のインバウンド業界も大きな打撃を受けています。

コロナ禍で旅行習慣や行動が激変しているなか、アフターコロナ時代において、「富裕層」は世界の旅行需要回復の重要な牽引役となることが予測されています。

理由はいくつかあります。

まず、富裕層は高い消費力をもっており、コロナ禍による経済ショックと旅行商品の高額化からあまり影響されないため、非富裕層より彼らが海外旅行にいく動きが早いと予想されています。

またJNTOの調査によれば、富裕層の一人当たりの旅行消費単価は136万円であり、訪日外国人全体の平均旅行消費単価の15.3万円より約9倍多いことがわかりました。

つまり一人の富裕層旅行者を誘致すれば、その経済効果は9人の普通旅行者に相当するといえるでしょう。

さらに、上述したように少ない客数で大きな経済効果が生み出せるという点では、富裕層を誘客することは、コロナ禍を機に「オーバーツーリズム 」からの脱却、「量から質」への転換に順応できると考えられます。

ただし、富裕層は大きな可能性を秘めている一方、JNTOの調査によると、現状日本が獲得した富裕層旅行者数と消費額はわずか4万9,000人、618億円と、それぞれが全体富裕層旅行市場の1.4%と1.3%しかありません。

米国追い抜き、中国人富裕層が1億人突破。もはや「爆買い」は古い、コロナ後の旅行トレンドは
▲[富裕層旅行者の市場規模]:JNTOより(画像=『訪日ラボ』より引用)

こうした背景と現状を踏まえて、観光庁は2020年10月に「上質なインバウンド観光サービス創出に向けた観光戦略検討委員会」を設置し、宿泊施設とコンテンツの整備・磨き上げ、効果的なプロモーションなどを進めことで、世界の富裕層の訪日促進を目指しています。

問われる富裕層のニーズへの対応、ポイントは「志向」の把握

アフターコロナに向けて、富裕層を誘致するには、彼らのニーズを把握することが必要です。

JNTOは、現在富裕層には、2つの異なる志向があると指摘しています。

ひとつは従来型の、「Classic Luxury志向」で、ラグジュアリーホテルなどに宿泊し、最高級のもてなしを快適な空間で過ごすことを大切にする志向です。

もうひとつが「Modern Luxury志向」です。

こちらは、新しい体験や一生に一度の体験など、贅沢さよりもその土地ならではの経験や自分にとって価値あることの体験を大切にする志向であり、「本物の体験」や「エコツーリズム」、「サステイナビリティ」がキーワードです。

現在、20~30代の若い層を中心に「Modern Luxury志向」が拡大しており、また上述した中国富裕層の旅行トレンドから、今後はユニークなオンリーワンの体験や日本やその地域ならではの価値を感じられる、「本物」の体験商品開発が求められるでしょう。

具体的に、以下3つの指標があるとJNTOによって示しています。

  1. 「コアバリュー」:日本やその地域ならではの価値があるかどうか
  2. 「バリュー提供」:一般的な旅行者に比べて特別感のあるコンテンツであるか
  3. 「商品性」:コンテンツの希少性や価値にあった価格設定

例えば、現在日本では本物の城に宿泊し、大名気分を味わえる文化体験や料理を提供する「城泊(しろはく)」といった取り組みが始まっており、こういった1泊100万円で城を貸切る「特別な体験」ができる旅行商品は、コロナ収束後の富裕層誘致に期待がかかります。

今後のインバウンドで関心を集める中国富裕層の訪日観光客

人口規模においても、経済規模においても、今後中国はますます世界の中で重要なポジションを占めていくことが予想され、それに伴い富裕層の数も加速度的に増加していくことが見込まれます。

これまでも訪日観光客数、消費金額ともにトップであった中国人観光客が、アフターコロナ後のインバウンド需要においても中心的役割を果たすであろうことは確実であるといえます。

その中でも消費額の大きい富裕層をどこまで取り込んでいけるのかが日本のインバウンド需要の浮沈を握る鍵となるでしょう。

アフターコロナの旅行需要回復に向けて、富裕層の志向を正しく把握し、ニーズに沿ったコンテンツの磨き上げやプロモーション戦略の見直しが求められるでしょう。