ネコは仏典をかじってしまうネズミを追い払うために仏教とともに日本へ伝来したという話は、多くの人が聞いたことのあるメジャーな雑学ではないだろうか。
しかし、これには近年疑問符がついているという。まず、2007年に兵庫県姫路市の見野古墳群で発見された須恵器にネコの足跡がついていたため、古墳時代から飛鳥時代前期にはネコが日本にいたという説が浮上した。
さらには、長崎県の壱岐島のカラカミ遺跡から見つかった骨を鑑定したところ、およそ2100年前、つまり弥生時代のネコの骨ということが発覚した。
ここまで見ると、上記の歴史の授業で聞いたネタはガセの感じが一気に強くなる。この点は除外しても、仏教でのネコの扱いはどうなのだろうか。
先に結論から述べておくと、実は仏教においてネコの扱いはあまり良いとはいえない。その実例として諸々の『涅槃図』が挙げられる。
これは釈尊の入滅の様子を描いたものだが、弟子達の他に様々な動物も描かれている。バレンタイン付近に涅槃会(釈尊の入滅は2月15日とされるため)という法要が行われるため、そこでの絵解きを受けた方もいるかも知れないが、これにはネコは描かれない。
その背景にはちょっとしたストーリーがある。天界にいるお釈迦さまの生みの親・摩耶夫人(マーヤ)は釈尊入滅に際して天から長寿の薬を与えようと袋入りの薬を投げたのだが、枕元の沙羅双樹に引っかかってしまった。こうして投げたことが「投薬」という言葉の語源ともいわれる。
それはさておき、この薬袋を落そうとネズミが木に登って枝をかじるのだが、それをネコが追い払ってしまったという。当然、薬は釈尊に届かず、延命はならなかった。これが『涅槃図』でネコが避けられる理由のひとつとされる。
他にも心を乱す、仏教に対する信仰心が薄いなど、ネガティブな内容が挙げられている。先の仏典を守るということからすると真逆のイメージだ。酷いものでは顔を洗っていて釈尊の涅槃に間に合わなかったなどという少々雑な印象の説まである。
また、日本各地に伝承がある火車という妖怪がいる。葬式や墓所から悪人の遺体を奪って地獄へ連れて行くとされているのだが、これは長生きしたネコが変化した化猫的なものともいわれる。
その他、葬式に関するネコの伝承も多く、棺桶の上をネコが飛び越えると亡くなった人は往生できないなど、悪い内容のものが目に付く。
ネコ派の方には申し訳ないが、日本の中でもネコと仏教についての相性はあまり良いとはいえなさそうだ。
上記のような理由でネコのややネガティブな話をしてきたが、実はネコが描かれた涅槃図も存在する。
本来タブーのネコを描いた理由は絵師が自分の飼っているネコをこっそり入れたり、依頼主がネコを入りでとオーダーしたためのようだが、その実例は非常に稀で、日本全国で10例ほどだという。
ネコ派の方は、奈良県橿原市の正蓮寺大日堂などで見られるこれらのレアアイテムを巡ってみるのも一興だろう。
文・遠藤和成/提供元・QUIZ BANG
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