北海道・美瑛町に広がる「展望花畑 四季彩の丘」の花のじゅうたんが満開になる8月には、毎年国内外からの多くの観光客が押し寄せてきます。実はこの国内でも屈指の観光スポットは、訪日外国人に悩まされた場所の一つでもあります。
広大な地面に色とりどりに咲く花畑を写真に収めれば、SNSにアップするにふさわしい「インスタ映え」の画像となります。こうした撮影を目的に、私有地である畑に無断で入り畑が荒らされる被害が発生しています。
日本で生活するならば、入っていい場所といけない場所があることは当然のルールです。ところが世界では「私有地」でも誰でも無断で入ることを許している国もあります。インバウンド受け入れの現場では、こうした常識の違いからトラブルにつながることも少なくありません。
この記事では、訪日外国人が増加する中、トラブルが急増している「土地」に関するルールや法律について紹介します。
なぜ無断で「私有地」に入ってしまう外国人がいるのか
訪日外国人に限らず、そこが入ってはいけない場所と認識できていないというケースや、人が見ていなければ、そして実際に草花を傷めてしまわなければよいと考える場合があるでしょう。
そして「この程度ならば大丈夫」という判断を下す際、人によって、また育った環境によって、その基準は大きく異なってきます。
海外旅行は人生に何度もない機会であるという場合もあるでしょう。旅先で解放感から羽目を外してしまい、普段ならば下さないような判断をしてしまう場合もあるかもしれません。
また、国によっては「他人の土地」に入り、好きに自然資源を持ち帰ることが当然のところすらあります。
フィンランドの場合:自然はみんなのもの「自然享受権」
北欧と聞いて、福祉の手厚い、プライベートの充実した、ゆとりのあるライフスタイルを思い浮かべる人は多いのではないでしょうか。公共のサービスが整えられているイメージを持つ人もいるかもしれません。
こうしたイメージの延長線上にあるといえるような、「自然享受権」という考えが、北欧の一国であるフィンランドに存在します。これは、「自然の恵み」について、誰もが楽しむ権利があるという考えです。
この考えに基づき、自然資源は土地の所有者だけのものではなく、その他大勢の人にとっても所有してよいものとなっています。たとえば、私有地である森の中でキノコや果実を収穫することは、人々の権利です。
私有地であっても、所有者に迷惑をかけない限り、人々は勝手に立ち入りや通行をしてかまいません。観光客に対しても同様の権利が付与されています。
同じ北欧ではあっても、国や地域によって権利の範囲は異なってきますが、自然享受権では、主に自転車での通行やテントでの宿泊、魚釣りや野性の果実やキノコ類の採取がその保証する権利の対象に含まれています。
日本では「私有地に入らない」というのは当然の考えですが、こうした「他人の土地であってもしてよいこと」がある国や地域で育っている場合、北欧に限らず、気軽に足を踏み入れてしまうこともあると考えられるでしょう。
日本で私有地(農地)への無断侵入は罰せられる?
日本では、私有地へ無断で侵入した際にはどのような罰則があるのでしょうか。日本では、刑法で定められている住居等に該当しない駐車場や畑などは「住居侵入罪」には該当しません。
しかし同時に、田畑の踏み荒らしにより損害が発生するような場合には器物損壊の罪に問うことができます。また、立ち入り禁止を明示している場合にも、罪を問うことができる可能性があるそうです。
ただしこうした訴えを起こす場合には、加害行為について証明する必要があり、防犯カメラを準備している、かつそこに行動が記録されていなければなりません。通りすがりの訪日外国人を相手に罪を問い、賠償させることは簡単ではないでしょう。
まとめ
自然景観や文化財の鑑賞を目的に観光客が増加すれば、街や都市の経済的発展にもつながりますが、マナーの共有ができなければトラブルにもつながってしまいます。
日本では、私有地でも農地など居住地以外での迷惑行為を罰した判例は少なく、どのように資産を守れば良いのか有効な方法がなく困ってしまう場合もあるようです。
自己防衛策としてできることには以下のような対策があります。
- 多言語対応した立ち入り禁止の表示を出す(もしくは私有地内での迷惑行為禁止の表示)
- 迷惑行為をみつけた場合に、NGであることを伝える
SNSやインターネットで、状況を知らせ、適切なふるまいについて案内する
SNSやインターネットで注意を促したり被害を報告した場合、景観を守りたいと思う支援者たちに声が届き、様々なかたちでトラブルに立ち向かうことができる可能性があります。
冒頭で紹介した北海道・美瑛町のケースでは、QRコード付きの立て札を設置し、所有者を支援する「クラウドファンディング 」のウェブページにアクセスできるような形をとりました。これを通じて、土地の管理者は金銭的な補助を受けることができたといいます。
今後も訪日外国人は増えていくと考えられますが、それぞれ考える「常識」が異なることによるトラブルは、単純に言葉で示すだけでは伝わらない場合もあります。「なぜいけないのか」を、相手の常識をベースに伝える姿勢が必要でしょう。
文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ
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