近年、インセンティブ旅行を中心に訪日旅行のニーズが高まっているインバウンドのインド市場では、独自の文化や宗教による考え方が浸透しています。
インドカレーのお皿がステンレス製であったり、右手のみで食事をしたりする点もその一部です。今回は、食器からわかるインドの食文化や慣習について紹介します。インド人の間で親しまれている食習慣や文化的背景を理解し、インド人観光客の受け入れ体制の整備に役立てましょう。
目次
インドカレーのお皿がステンレス製のワケ
▶︎ヒンドゥー教の概念「不浄」
▶︎現代もなおステンレスが利用されるのはスパイスの色移り防止
食器からわかるインド文化
▶︎一番多く食べるのはカレー
▶︎右手だけでごはんを食べる
食文化から国の習慣を知ることで理解につながる
インドカレーのお皿がステンレス製のワケ
日本でも、インド料理レストランに行くと、カレーのお皿が陶器ではなくステンレス製であることが多いことがわかります。その背景として、実はインドにおける宗教的概念やインドカレーならではの特徴が影響しているといいます。
ヒンドゥー教の概念「不浄」
インドでは、人口の約8割がヒンドゥー教徒といわれており、彼らはヒンドゥー教の基本的な概念である「浄、不浄」を日頃から重んじています。ヒンドゥー教の法典の1つ「マヌ法典」で規定されている概念で、日本人にもわかる汚物のようなモノだけでなく、血液なども不浄として規定されています。
そのため、食器が汚れることを避けるために、インドではステンレス製のお皿が使われるようになりました。南インドでは、バナナリーフを使用しているケースも多く見受けられます。
インド西部のコルカタや南部のケララなどでは、チャイという紅茶の一種を飲む際に素焼きのコップを使用しますが、チャイを飲み終わったらその都度投げ捨ててしまいます。これはまさに、人が使ったモノは不浄という、ヒンドゥー教の基本的概念の現れです。
現代もなおステンレスが利用されるのはスパイスの色移り防止
インドカレーのお皿にステンレスが使用される理由として、スパイスの色移り防止も挙げられます。インドカレーにはさまざまなスパイスを多用するため、白いお皿の場合、赤やオレンジなどのスパイスの色が沈着してしまうことがあります。
一方で、ステンレス製のお皿を使用すれば色移りすることなく、油汚れなども落としやすいため、現在も日常的に使用されるようになりました。
また、ステンレス製のお皿のメリットとして、壊れにくさも挙げられますが、インドではカレーを手で食べる習慣があることから、冷めやすさの観点からも重宝されているといえます。
食器からわかるインド文化
インドでステンレス製のお皿が多用される背景として、インドならではの文化が影響しています。ここでは、食器からわかるインドの食文化と食習慣について解説します。
一番多く食べるのはカレー
インド料理は、基本的にさまざまなスパイスを使用し味付けをするのが特徴です。インドではカレーだけでなく、クミンやターメリック(ウコン)、コショウなどの香辛料を使用して作るスープや煮込み料理、油で炒めたおかずも、日常的に食べられています。
また、日本で関東と関西で出汁の味が変わるように、インドも北と南で使われるスパイスが異なります。
北インドでは、一般的にガラムマサラと呼ばれる香辛料を使用し、「タンドゥール」というつぼ形の釜でタンドリーチキンやナンなどを作ります。南インドでは、よりスパイシーな料理が好まれ、ココナッツミルクで風味をまろやかにする料理が主流です。
東インドのベンガル地方では、よくパンチフォロンという配合調味料を使用します。熱した油にパンチフォロンを入れ、香りを出してから野菜や魚を調理すると、さっぱりした上品な味に仕上がり人々に親しまれています。
かつてポルトガルの植民地であった西インドのゴア州では、豚肉や魚を使用した煮込み料理といった、ポルトガルの食文化の影響を受けた料理も残っています。
このようにインドでは、カレーを中心にさまざまなスパイスを使用した料理が浸透しており、日本や中国などと同じように、地域によって異なる食文化を持っている点が特徴的です。
右手だけでごはんを食べる
インド人は手を使って食事をするというイメージは日本でも浸透していますが、実は右手のみを使うことがルールとなっています。最近では都市部を中心にナイフとフォークを使う場面も増えましたが、宗教的なお祭りなどでは現在も手で食べるのが主流です。
右手のみを使って食べる理由は、ヒンドゥー教の教えで浄を扱う手と不浄を扱う手が決まっており、不浄である左手で食事をすることは教えに反するからです。
また、自然のものを使用することを推奨しているため、南インドを中心にバナナの葉っぱをお皿代わりにすることもあります。
食文化から国の習慣を知ることで理解につながる
インドでステンレス製のお皿を使う理由として、ヒンドゥー教の不浄の概念やスパイスの色移り防止があるなどといったことから、インドならではの宗教事情や食文化を知ることができます。
インドといえばカレーのイメージが強いなか、地方によって使用するスパイスや親しまれる料理が異なるということを知っていれば、インド人の食の好みも出身地によって異なることが想像できるでしょう。
また食事は浄を扱う手である右手のみですることから、訪日旅行で訪れたインド人と握手をするときも右手を差し出すようにするなど、インドならではの習慣に配慮した対応が可能となります。
食文化をきっかけにその国の習慣や宗教事情などを理解し、インバウンド市場別に適切なおもてなしを心がけることで、インバウンドの満足度向上やリピーターの獲得にも繋がるでしょう。
文・訪日ラボ編集部/提供元・訪日ラボ
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