指紋の主な役割にはグリップ強化と指先の感度増幅があります。

しかし、どちらかというと前者のほうがよく知られています。指紋のデコボコが摩擦力を大きくし、滑り止めになっているのです。

ところがスウェーデン・ウメオ大学総合医学生物学部に所属するエワ・ジャロッカ氏ら研究チームは、指紋が私たちの想像していた以上に感度を増幅させていたと発表しました。

指の触覚ニューロンは、指紋の一山ごとに強い信号を受け取っていたのです。

目次
指先の繊細な感覚はどこからくるのか?
指紋が指先の感度を増幅させていた

指先の繊細な感覚はどこからくるのか?

人間の指紋には滑り止めだけじゃなく思っていたより「感度増幅」の役割があった
(画像=人間の指先には繊細な感覚がある / Credit:Depositphotos、『ナゾロジー』より引用)

感覚ニューロンは皮膚のすぐ下に点在しており、それぞれが触覚、振動、圧力などの刺激を検出できます。

手だけでも数万のニューロンが存在しているのです。

当然指先にもそれらの感覚ニューロンが集まっており、繊細な感覚を生み出しています。

ところが単一のニューロンがどの程度の感度を持っているのか正確に研究されたことはありません。

そこで研究チームは、特に繊細な触覚を与える2種類の「触覚ニューロン」に焦点を当てました。

皮膚の下にあるそれらニューロンの情報伝達繊維は皮膚の表面に達する前に枝分かれしています。

そしてそれぞれの枝は、指紋の隆起部分にある触覚受容体のグループと繋がっているとのこと。

つまり、触覚ニューロンは指紋からも感覚情報を受け取っているのです。

しかし指紋が無くても触覚はあるものです。では、指紋の存在は触覚の感度にどのような影響を与えているのでしょうか?

この疑問を解決するために、研究チームは指における感度の高いゾーンをマッピングすることにしました。

指紋が指先の感度を増幅させていた

人間の指紋には滑り止めだけじゃなく思っていたより「感度増幅」の役割があった
(画像=指先の中で特に感度が高いゾーンをマッピングする / Credit:Ewa Jarocka、『ナゾロジー』より引用)

実験では、12人の健康な参加者の指先感度がマッピングしました。

彼らの腕と指を固定し、機械で0.4mmの円錐を皮膚全体に動かしながら当てました。そしてこの時の各ニューロンの応答を記録。

これにより指先で特に敏感なゾーンが分かるのです。

実験の結果、高感度ゾーンの検出領域の幅が、指紋の隆起の幅に等しいと判明しました。

人間の指紋には滑り止めだけじゃなく思っていたより「感度増幅」の役割があった
(画像=マッピングされた触覚ニューロンの受容野 / Credit:Ewa Jarocka、『ナゾロジー』より引用)

チームは追加で、スキャン速度やスキャン方向を変化させてみましたが、やはり高感度ゾーンは指紋の隆起部分に固定されていたとのこと。

またジャロッカ氏は次のようにも述べています。

「観察した2種類のニューロンは指先に集中しており、2.5cm²の面積に、約500個のニューロン受容野が重なっていることが分かった」

「例えば、ピアスやコインなどの細かい部位に触れると、実際には多くのニューロンが刺激を受け、たとえその部位がわずか0.4mm程度だったとしても、その情報を得られるのです」

つまり指先において、指紋こそがその感度を増幅させていたのです。

しかも指紋は時間経過で変化せず、ケガをしても再生します。外部から小さな情報を取り入れるのに、これ以上ないくらい安定しているのです。

私たちは指先の繊細な感覚をもっています。この感覚を当たり前だと感じている人が多いのではないでしょうか?

ところが繊細な感覚は決して当たり前ではなく、指紋という小さな存在によって与えられていたのです。


参考文献

How fingerprints sharpen our sensitivity to touch

元論文

Human touch receptors are sensitive to spatial details on the scale of single fingerprint ridges


提供元・ナゾロジー

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