昔から「読書は大切だ」と言われてきましたが、最近の研究では、読書が数学的能力も向上させると判明しました。
アメリカ・ニューヨーク州立大学バッファロー校心理学部に所属するクリス・マクノーガン氏は、脳の読書ネットワークが、乗算などの一見関係のない活動時にも働いている様子を確認したのです。
文系の基礎能力である「読み書き」は、理系の基礎能力「数学」にも深く関係していたことになります。
研究の詳細は、2月12日付けの学術誌『Frontiers in Computational Neuroscience』に掲載されました。
目次
失読症を見つける実験から意図せずに判明
使用される脳内ネットワークは作業分野によって異なる
読解力は数学にも影響を与えていた
失読症を見つける実験から意図せずに判明
当初、マクノーガン氏は失読症を発見するための研究を行なっていました。
失読症(またはディスレクシア)とは、学習障害の一種であり、知的能力には異常がないものの、文字の読み書きが困難になる障害です。
これには文字や単語の理解に時間がかったり、文字を書けなかったりすることが含まれます。
科学者たちは、失読症の人が通常とは異なる仕方で脳を働かせており、結果として文字処理をスムーズにできなくなっていると考えています。
そこでマクノーガン氏は、脳の処理方法をAIで分析することにより、子供たちが失読症かどうか判断できるようにしました。
実験の結果、AIは94%の精度で失読症を特定。
マクノーガン氏はこの成果を一般化するためにfMRI情報から脳内ネットワークとの関連性を探りました。
失読症は「読み書き」の分野だけに影響する症状なので、他の分野における脳の働き方と比較することで、特定方法をより明確なものにしようとしたのです。
結果としてマクノーガン氏は当初の意図とは別に、読書が数学に与える効果を発見してしまいました。
使用される脳内ネットワークは作業分野によって異なる
マクノーガン氏の新しい発見には、脳の働き方が大きく関係しています。
通常、脳内の神経ネットワークは、作業の分野によって異なる配線が使用されています。
これはパソコンと周辺機器の接続に例えられるかもしれません。
私たちが仕事中に書類を印刷したい場合、パソコンはプリンターと繋がっており、ここで情報をやり取りしています。
ところが仕事後にはパソコンと大型ディスプレイを繋いで、映画を見ているかもしれません。
同じように、私たちの脳内ネットワークは作業の種類によって瞬時に変更されます。
例えば、何かを見ているときは常に視覚野が働きますが、本を読んでいるときには視覚野だけでなく聴覚野も連動しています。
また本を読んでいるときに手が滑ったとしましょう。私たちの脳内ネットワークは視覚野に運動前野を瞬時に追加して、落下する本を捕まえようとするはずです。
同じように、読み書きと数学で使用される脳内ネットワークも異なっていると考えられます。
読解力は数学にも影響を与えていた
マクノーガン氏が行った失読症の実験の中には、読み書きだけでなく乗算の問題も含まれていました。
当然、数学の問題を解くときには、数学に特化した脳内ネットワークになるはずです。
ところが実験の結果、数学の問題(乗算)をこなしているときには、読書に使用される脳内ネットワークも同時に働いていると判明。
マクノーガン氏は次のように述べています。
「これらの結果は、読書のための脳の働き方が、数学のための脳の働き方に影響を与えていることを示しています」
つまり、読解能力は他の分野にも影響を与えるのです。
これは読書と数学の両方で学習困難な子供たちをより理解するのに役立つかもしれません。
また彼は、「読書を教育的に重視することは、読書スキルを向上させる以上の意味がある」と付け加えています。
脳の読書ネットワークが鍛えられているなら、数学に取り組むときにも有効に働くのです。
マクノーガン氏の研究結果から、改めて「読書は大切」だと分かりますね。
参考文献
Reading Skills Affect Everything, Even Math
元論文
The Connectivity Fingerprints of Highly-Skilled and Disordered Reading Persist Across Cognitive Domains
提供元・ナゾロジー
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