鳥のクチバシは、色も形も大きさも多彩で、エサを裂いたり、木の実を割ったり、花の蜜を吸ったりと何でもこなせます。

ただし、食べ物を「噛む」こと以外は。

現生鳥類には、クチバシに歯がついておらず、エサを咀嚼することができません。

その代わり、砂や小石を飲み込んで事前に砂肝をつくり、そこでエサを消化する種もいます。

しかし、なぜ鳥には歯がないのでしょうか?

目次

昔は鳥にも歯があった!

歯をつくる遺伝子を「不活性化」させていた

歯を失くしたのは「孵化期間」を短くするため?

昔は鳥にも歯があった!

鳥類の祖先をさかのぼれば、ティラノサウルスやヴェロキラプトルといった獣脚類の恐竜にたどり着きます。

獣脚類は非常にどう猛な種が多く、もちろん肉を噛み砕く鋭い歯をもっていました。

しかしどういうわけか、彼らは牙を失くした鳥へと進化していきます。

恐竜と鳥類の共通祖先は、約1億5000万年前に生息していた始祖鳥で、その時点では歯がありました。

それから、白亜紀後期 (9300万〜6500万年前) に存在したイクチオルニスの化石にも、まだ歯が確認されています。

なぜ鳥は進化の中で「歯」を捨てたのか?
(画像=「イクチオルニス」の骨格の復元図 / Credit: ja.wikipedia、『ナゾロジー』より 引用)

しかし、イクチオルニスは進化の「中間段階」にあり、前に伸びたクチバシには歯がなく、残った歯は奥の方に集中していました。

これはクチバシの発達と、歯の喪失が同時期に始まったことを示します。

では、鳥はどうやって歯を失くしたのでしょうか?

歯をつくる遺伝子を「不活性化」させていた

カリフォルニア大学リバーサイド校とモントクレア州立大学による以前の研究で、48種の現生鳥類に、歯のエナメル質と象牙質の形成にかかわる遺伝子を不活性化させる突然変異が起きていたことが分かっています。

エナメル質は、歯の一番外側の最も硬い部分で、象牙質は、そのすぐ下にある歯の主成分です。

この発見は、進化のある時点で、鳥類が歯を形成する能力を遺伝子的に失くしたことを意味しています。

また興味深いことに、マンチェスター大学とウィスコンシン大学の研究(2006)で、ニワトリの遺伝子を操作し、歯の成長にかかわる遺伝子を活性化することで、ヒナに歯を与えることに成功しています。

なぜ鳥は進化の中で「歯」を捨てたのか?
(画像=形成途中のヒナの歯(2006) / Credit: cell、『ナゾロジー』より 引用)

この一連の研究から、「鳥の歯の喪失は遺伝子の不活性化によって生じた」という理論が専門家の間で一致することとなりました。

それでは、なにゆえに鳥は歯を失くす必要があったのでしょうか?

歯を失くしたのは「孵化期間」を短くするため?

このナゾは、長年の間、多くの鳥類学者を悩ませ続けています。

初期の頃には、「飛翔時に体を軽くするため」といった説が唱えられましたが、歯のあるコウモリは軽々と空を飛んでいます。

また、「食習慣の変化と関係している」という主張もありましたが、歯の方がクチバシよりも幅広い食料の咀嚼に適しているため、賛同を得られていません。

その中で、最も有力となっているのが、2018年にドイツ・ボン大学の発表した「孵化期間の短縮説」です。

魚類や両生類の産卵とは違い、鳥類は比較的大きな卵を数個だけ産み、孵化までの期間も平均11〜85日と短めです。

卵は鳥にとって最も危険な時期であり、孵化までの期間を短縮することで、種の生存が有利になります。

なぜ鳥は進化の中で「歯」を捨てたのか?
(画像=歯の生成に時間がかかりすぎた? / Credit: jp.depositphotos、『ナゾロジー』より 引用)

一方で、かつての非鳥類型の恐竜たちは、孵化までに約3〜6ヶ月もかかっていました。

これは卵の中で、歯の形成に多大な時間を要するためです。

歯の形成は潜伏期間の約60%を占めており、その間に卵が食べられることも多々あったでしょう。

つまり、鳥類は歯を捨てることで、孵化時期を早め、ヒナの生存率を高めたと考えられるのです。

特に、鳥のように、卵を地中に埋めたり隠したりせず、開けた巣に放置する生き物にとっては有効だったと思われます。

「何かを得るためには、何かを捨てなければならない」

これが種の生存の鉄則なのかもしれません。

参考文献
Why Don’t Birds Have Teeth?

ライター:大石航樹
愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者:やまがしゅんいち
高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?。

提供元・ナゾロジー

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