体の組織や器官は、加齢に伴って機能が衰え、再生能力も低下していきます。
多くの人が加齢とともに悩む、薄毛・脱毛は毛を作り出している「毛包(もうほう)」が縮小しなくなってしまうために起こりますが、加齢に伴いこの細胞の再生がうまくいかなくなる理由は、明らかにされていませんでした。
毛包とは毛を生産する皮膚の器官のことで、皮膚から見える表面を一般に毛穴(けあな)と呼んでいます。
2月11日に科学雑誌『Nature aging』で発表された新しい研究は、加齢に伴う脱毛の原因が毛包幹細胞の分裂にあることを突き止めたと報告しています。
この発見は、脱毛症の新たなる治療に繋がる可能性があります。
目次
なぜ人はハゲてしまうのか?
細胞分裂の方向で問題が起きる
なぜ人はハゲてしまうのか?
毛は毛包と呼ばれる皮膚の器官から作り出されています。
今回の研究グループは、以前の研究において、毛包幹細胞に発現する「17型コラーゲン」というタンパク質が毛包の再生に必須だということを明らかにしています。
加齢が進むことで起こるDNA損傷や、放射線など環境ストレスを受けると、17型コラーゲンは分解されてしまいます。
17型コラーゲンを失うと毛包幹細胞は自己複製や、毛を生やす細胞を作り出す代わりに、「表皮角化細胞」というものを生み出すようになってしまい、これがフケや垢としてポロポロ剥がれ落ちていきます。
これが繰り返されると、毛を作る器官である毛包は、どんどん縮小していってしまい、結果薄毛や脱毛が引き起こされるのです。
しかし、この器官の再生や老化を司る、幹細胞で分裂の変化がなぜ起きるのか、その詳細は全くわかっていませんでした。
細胞分裂の方向で問題が起きる
今回の研究では、若いマウスと加齢したマウスの毛包幹細胞を解析しました。
すると、加齢したマウスでは、細胞が特殊な非対称分裂を引き起こしているとわかったのです。これが表皮角化細胞へと分化する細胞を生み出していたのです。
これは放射線など細胞にストレスのある状況下でも、同様の幹細胞分裂が起こることがわかりました。
細胞分裂には軸があり、この方向で組織の構造や多様性を生み出しています。
通常は基底膜という細胞が張り付いている面に水平に分裂します。これは均等に同じ状態の幹細胞を生み出します。(対称分裂)
しかし、加齢やストレス化した幹細胞は、基底膜に対して垂直な分裂を起こします。(非対称分裂)
細胞の成分はすべて均一に広がっているわけではなく、ある偏りを持っています。
これを「細胞極性」といいますが、水平に分裂した場合、細胞極性は生まれませんが、垂直に分裂した場合、細胞極性が生まれてしまうことで、正しい自己複製にならないのです。
こうしたメカニズムで、細胞の老化や機能損失が発生していると今回明らかになったのです。
今回の研究は、幹細胞分裂プログラムによる器官の再生や老化の仕組みについて新しい視点を与えるもので、脱毛症の新しい治療薬開発に繋がることが期待されています。
参考文献
幹細胞分裂タイプの違いが毛包の再生・老化を決定づけることを発見(東京医科歯科大学)
元論文
Distinct types of stem cell divisions determine organ regeneration and aging in hair follicles
提供元・ナゾロジー
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