2地点間の最短距離が直線であることは、誰もが知っていることです。
しかし、実際に街中を歩いてみると、直線だけでは目的地にたどり着けません。
右折左折やカーブがたくさんありますが、もちろん、目指すべきは最短ルートです。
ところが、マサチューセッツ工科大学(MIT・米)の研究チームが調査したところ、私たちの脳は、徒歩で移動する際、いわゆる「最短ルート」を計算するようには最適化されていないことがわかりました。
調査の結果、私たちは、少し距離が長くなっても、出発地から目的地への角度のズレが少ないルートを選んでいたのです。
一体、どういうことでしょうか。
研究は、2021年10月18日付けで学術誌『Nature Computational Science』に掲載されています。
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- 脳「なるべく曲がらず、直進したい」
脳「なるべく曲がらず、直進したい」
主任研究員で、MITのセンシブル・シティ・ラボラトリー(SCL)の所長を務めるカルロ・ラッティ(Carlo Ratti)氏は、本研究のきっかけについて、こう述べます。
「私は20年前、ケンブリッジ大学の大学院生だった頃、ほぼ毎日、滞在先の大学と学部のオフィスを結ぶルートを行き来するばかりでした。
しかし、ある日、行きと帰りで2つの異なるルートを歩いていることに気がついたのです。
一方のルートの方が効率は良かったのですが、私は2つのルートを行きと帰りのそれぞれに適応させていました」
ここから、人の脳は必ずしも最短ルートを選ぶようになっていないのではないか、と考えたそうです。
そこでラッティ氏と研究チームは、数年前に収集された、マサチューセッツ州のボストンとケンブリッジを歩いた歩行者の携帯電話から匿名化された1年分のGPS信号のデータセットをもとに調査を開始。
対象となったのは、1万4000人以上の約55万回の往復ルートで、徒歩で移動する際に人々がどのようにルートを選択しているかを分析しました。