博士は「空間だけでなく、時間にも結晶のような規則性が現れる状態が作れるのではないか」と考え、「時間結晶」というまったく新しい概念を提唱しました。

(※博士が最初に考えた「永遠に周期運動が続く物質状態」というアイデアは、のちに理論的に実現不可能であることが示されています。そのため現在では、外から何かしらのエネルギーを与えることで周期的な運動を生じる「時間結晶」の研究が主流となっています。)

ここで重要になるのが、「時間の対称性」という考え方です。

私たちが普通に暮らしていると、時間の流れは一定のリズムで常に同じだと思えますよね。

ところが、ある条件で外部から一定のリズムの刺激を与えると、刺激された物質自身がまったく違う自分独自のリズムで動き始めることがあります。

これは、与えられたリズムとは異なる周期を物質自身が生み出し、「時間の対称性」が自発的に破れることを意味しています。

ただし、振り子時計のように外から周期的にエネルギーを加えて動かすものは、物質自体が生み出した周期ではないため、「本当の時間結晶」とは言えません。

最近では、こうした周期的な刺激(専門的には「周期駆動」と呼びます)がなくても自発的に周期運動が起きる、より理想的な「連続時間結晶」も観測されるようになりました。

しかし、これらの報告の多くは極めて小さな粒子を扱った量子系(ミクロな世界の物理現象)での研究であり、人間の目で直接観察できるスケールのものではありませんでした。

さらに、時間方向だけでなく空間の対称性も同時に破れる「時空結晶(じくうけっしょう)」という、さらに高度な現象も提唱されましたが、これまでは理論上のアイデアに留まり、実験的な実現は量子系でも古典的な系でも報告されていませんでした。

そこで本研究のチームは、私たちが日頃スマートフォンやテレビの画面で見慣れている「液晶」という非常に身近な材料を使って、この「連続的な時空結晶」の実現を目指しました。