すりガラスが濡れると透けるのと同じ現象が、自然の花で何度も繰り返されているというのは、興味深いことです。
ちなみに、サンカヨウの透明な花が見られるのは、花期の終盤やしっかり濡れたタイミングが多いと言われ、まさに“儚い美しさ”を体現しています。
そしてその美しさと不思議なメカニズムは、多くの科学者たちの関心を集めてきました。
科学者たちは「サンカヨウの秘密」に注目している
サンカヨウがなぜこのような性質を持っているのか、実は明確な理由はわかっていません。
「雨の日でも目立つことで虫を引き寄せるため」という説や、「花びらの構造上の偶然」とする説などがあります。
いずれにしても、こうした透明化を見せる花は世界でもごくわずかで、サンカヨウはその代表格です。
この可逆的な透明化現象は、科学者たちからも高い関心を集めてきました。
1960年代、日本の植物学者がサンカヨウから抽出した成分を動物実験で調べたところ、強い抗腫瘍作用を示すことが分かりました。
これは医薬品であるポドフィリンやコルヒチンに似た性質を持ち、それらよりも強力だったとされています。
サンカヨウは新しい医薬品の材料源になり得る可能性が示されたのです。
ただし、その後の研究は限られており、今も多くが未解明です。
一方で、サンカヨウの「濡れると透明になる」仕組みは、材料科学やエンジニアリング分野でも応用が始まっています。
たとえば、花びらの構造を模倣したシリコン樹脂フィルムを作ると、乾燥時は白く濁り、濡れると透明になる「ハイドロクロミックフィルム」が実現できます。
これは湿度や水分に応じて自動で透明度を切り替える“スマートウィンドウ”の技術開発につながっています。
「建物の窓ガラスが天候に合わせて省エネで光や熱を調整できる」という技術なのです。
さらに、2025年には中国の研究チームがこの原理を応用し、従来の30倍も高感度で癌マーカーを検出できる新たな診断法を開発しています。