サンチェス首相(中央)スペイン首相官邸HPより

スペイン史上最長の首相休暇

スペインでひと月近くも休暇を取った首相はこれまでいなかった。夏休みといっても、首相ともなれば8月も執務で多忙を極めるはずだ。数日の短期休暇で官邸を離れることは許されても、長期間にわたって業務を離れるのは異例である。これが民主化以降のスペイン歴代首相の通例であった。

ところが、サンチェス首相夫妻は23日間の休暇を取った。そのため市民からは批判が殺到した。さらに、その後もアンドラで超高級ホテルのワンフロアを貸し切り、4日間滞在した。

首相夫妻の夏休みの費用は誰が負担したのか。当然、それは国民の税金である。

夫妻が23日間を過ごしたラ・マレタ宮殿はランサロテ島にあり、かつてヨルダンの故フセイン1世がスペイン王家に寄贈し、国有となった建物だ。だが首相の休暇に利用したのは、サパテロ元首相夫妻とサンチェス首相夫妻だけである。この二人の首相はいずれも、スペインの統一を揺るがす政策を進めてきたと批判されている。

サンチェス首相の滞在にあたり、宮殿の設備改善に7万ユーロ(約1120万円)が充てられたという(8月5日付「ボスポプリ」)。さらにSPと治安警察計95名が同行し、沿岸海域では警備艇が監視に当たった。

国有宮殿を別荘化、山火事そっちのけ

休暇中には首相夫妻の家族も宮殿を訪問した。国有財産をあたかも私邸のように利用したことが、再び市民の批判を招いた。

その間、スペイン中北部で大規模な山火事が発生。サンチェス首相は3度現地を視察したが、そのたびにマドリードの基地から専用機が空席で迎えに行き、視察後は首相を休暇先に送り届けて再び空席で戻るという非効率な運用が行われた。なぜ一度に複数箇所を訪問しなかったのかと疑問が呈された。

また、被災地では首相の滞在がわずか2時間程度にとどまり、現場の状況把握や被災者との交流は十分でなかった。多くの市民が避難を余儀なくされ、家を失った人々が苦しむ中で、首相は夏休みを返上する意思をまったく示さず、休暇を優先した。

独裁化する首相、党内沈黙