さらに心臓は非常に大きく、拍出量は他の魚の約5倍に達します。

心臓の心室はスポンジ状になっており、そこを流れる血液から直接酸素を取り込める仕組みまで備えているのです。

これらの進化によって、ヘモグロビンを失ったという不利な条件を見事に補い、氷の海でも力強く生き抜いています。

巨大な繁殖地の発見と進化の謎

コオリウオがいつどのようにして「白い血」を獲得したのかは興味深い謎です。

研究によると、数千万年前に南極大陸が急激に冷却され、海が氷点下の酸素豊富な環境になった際に、偶然ヘモグロビンを失う突然変異が起こったと考えられています。

通常であれば致命的な欠陥となるはずの変異ですが、南極の特殊な環境では逆に生存が可能となり、その結果「透明な血を持つ魚」という進化的に異例の存在が生まれたのです。

このユニークな適応は単なる生き残りにとどまらず、コオリウオが南極海に広がる生態系の中で繁栄することを可能にしました。

2022年、ドイツのアルフレッド・ウェゲナー研究所の調査により、ウェッデル海のフィルヒナー棚氷の下で驚くべき発見が報告されました。

そこには、直径0.75メートルにもなる巣が無数に広がり、なんとおよそ6,000万匹のカラスコオリウオが繁殖している、世界最大規模の魚の繁殖地が存在していたのです。

調査を行ったオトゥン・プルサー博士によれば、「カメラを曳航しても巣の終わりが見えないほどの広がりだった」とのことです。

この発見は、氷の下にこれほど巨大な繁殖コロニーが形成されうるという事実を初めて示したものであり、南極の海洋環境がこの魚たちにとってかけがえのない生息地であることを強く示しています。

欧州連合や南極の海洋生物資源保存委員会(CCAMLR)は、2016年からこの地域を海洋保護区に指定する提案を検討しており、国際的な保護の必要性が高まっています。

全ての画像を見る

参考文献