従来みられた“中年で山形、のち減少”というプロフィールは、2019年以降ははっきり観測されなくなりました。

なぜ若者たちは不幸に?

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Credit: canva

研究チームは米英にとどまらず、2020〜2025年の44カ国・約190万人のオンライン調査(Global Minds Project)を解析。

ここでも不幸感は年齢とともにほぼ単調に低下していました。

メンタルヘルス総合スコア(MHQ)や「悲嘆・絶望感」「不安・恐怖」「自傷思考」など複数の指標で同様の年齢プロファイルが確認され、若い女性でより深刻という性差も広範に再現しています。

では、なぜ若者の不幸感が世界的に強まっているのでしょうか。

論文は正確な因果関係を断定していませんが、複数の要因の可能性を指摘します。

第一に、2008年の世界金融危機の長期的影響で就職・所得の展望が悪化し、新規参入世代に「心的な傷跡」が残ったこと。

第二に、メンタルヘルスサービスの慢性的な資源不足で、若年層の不調が長期化・慢性化しやすいこと。

第三に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が既存の悪化傾向を加速した可能性。

第四に、スマートフォン/SNSの普及が比較・孤立・睡眠の質低下などを通じて不調を強めている可能性です(自然実験を含む研究では、利用制限が自己申告のウェルビーイングを改善したという報告もある)。

いずれも一つで説明しきれるわけではなく、国・地域・性別・社会制度によって重みが異なると考えられます。

重要なのは、年齢と不幸感の関係が構造的に変わってきているという点です。

「人生のどこでしんどさが最大になるのか」という当たり前だと思われていた曲線が、わずか10年あまりで反転しました。

個人の努力や「気の持ちよう」では吸収しきれない社会的変化が、若者のメンタルに集中してのしかかっている可能性があります。

学校・職場のメンタル支援の底上げ、SNS・スマホ利用の健全化、アクセスしやすい対面・オンラインの相談窓口、家計や住宅を含む将来展望の回復――政策と実務の両面で、若者を起点に据えた再設計が問われています。