顔認証決済で「何もしないで店を出られる」

 トライアルGOの最大の特徴は無人決済システムだ。「顔認証で登録をすると、全部袋に入れてそのまま持って出ても決済がそのまま済んでしまう。何もしないで店を出られるという仕組み」を実現している。

 これはアマゾンゴーの日本版のようなもので、小型店舗ながら従来のコンビニ等とは一線を画すサービスを提供する。

「普通のスーパーだとバックヤードが店の3分の1ぐらいを占めるが、トライアルGOはコンビニの跡地にも出店できる。バックヤードをほとんど使わないからこそ、都内の高い賃料の場所でも効率的な経営が可能」だと中井氏は分析する。

バックヤードがない革新的なビジネスモデル

 日本のスーパーマーケット業界の構造的問題について、中井氏は興味深い指摘をする。

「日本では魚を生で食べる文化があり、昔から鮮度にうるさい客が多い。そのため『いま切りました。いまパック詰めしました』と見せないと客が離れてしまう国だったので、各店舗で加工作業を行うようになった」

 この結果、「欧米のスーパーは集中センターで加工したものを各店舗に配送するが、日本ではそれをやらなかった。店を増やせば増やすほど効率が良くなるはずのチェーンストアで、規模の利益が働かない」という非効率な構造が生まれた。

「どこのスーパーも全部バックヤードで作業をしているので、ものすごく労働分配率が高い。ドラッグストアなど生ものを扱わない小売業と比べて10%ぐらい人件費率が高い」

 この構造的問題により、「人件費が上がった瞬間に一発で収益が悪化する。大手も含めて基本的にスーパーマーケット業界は今、青息吐息の状況」だという。

まいばすけっととの本格競合が始まる

 こうした業界環境の中、まいばすけっとが成功している理由について、中井氏は次のように説明する。

「まいばすけっとはイオンの集中センターから全部配送している。バックヤードを使わないノウハウをイオンがちょっとずつ強めていき、最近になってそれを実験してみた」

 最初は「団地の中など、他に店がないような場所で実験していた。要はうるさい客も文句の言いようがない状況です。交通の足がない人が『生ものがあって嬉しい』と言ってくれる場所を選んで作ってきた」

 実験の結果、「遠くに行かなくてもいいという人は結構受け入れてくれるし、高齢化してきたので、そこまでうるさく言わなくなったということがわかった。鮮度云々よりも今は近いことの便利さが上回る」時代になったわけだ。

 トライアルGOとまいばすけっとの競合について、中井氏は「めちゃめちゃある」と断言する。「基本的に目指しているものは全く一緒で、コンビニのサイズのお店をコンビニの距離感でたくさん密集して出す戦略」だからだ。

 ただし、トライアルGOの優位性として「無人店に近い効率的な運営により、まいばすけっとよりも処理能力が非常に高い可能性がある。もし本当に実現できれば、まいばすけっとよりも効率の良い儲かるスーパーになる」と予測している。

 今後の展開について中井氏は、「西友の既存店を使ったサテライト方式で最初はスタートダッシュをかけ、最終的には独立したセンターを作ると思う。この時期、地方企業にとって都会を取るためにはこの手しかなかった」と分析。「何年かはトライアルが相当首都圏を席巻する可能性がある」と予想している。

 小型店舗市場の競争激化により、従来の中小スーパーの淘汰が加速することは避けられない。IT技術を駆使した新しいビジネスモデルが流通業界の勢力図を大きく変える転換点を迎えている。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=中井彰人/流通アナリスト)