企業向け特化戦略が急成長の原動力
アンソロピックのARR(年間経常収益)は、2023年の1億ドルから2024年に10億ドル、2025年7月時点で推定40~45億ドル(年換算)と驚異的な成長を遂げている。特に企業向け事業が牽引役となっている。
この急成長の背景について、湯川氏はアモデイ氏の戦略的判断を紹介する。
「アモデイさんが最近のインタビューで言っているのは、企業向けに特化しているんだということです。企業向けの方が実は儲かるということが一つと、それから企業向けをやっている方がモデルを改良した際にインセンティブが湧くんだと彼は言っています」
具体的な例として、AIの知能レベルの違いが与える影響を挙げる。
「今は学部卒の知能と博士号レベルの知能を消費者向けアプリにした時に、消費者はその違いがあまりわからない。ちょっと良くなったかなというぐらいです。ところが、学部卒の知能と博士号の知能を例えば製薬会社に持っていくとすると、製薬会社にとってはこの差というのはめちゃめちゃ大きいわけです。それで、使用料を10倍払うかというと、払うわけですよ」
技術面では、特にコーディング分野での優位性が顕著だという。
「技術的には、今はコーディングエージェントと呼ばれるプログラミングのためのAI機能が一番伸びている分野ですが、そこも今アンソロピックが一番強いのかな。エンジニアに聞くと、みんなやっぱりアンソロピック一択の状態ですね」
湯川氏は業界全体の変化についても言及する。
「この半年間くらいずっと言っていることで、業界的に一般の人には全然伝わっていないことが3つあります。その一つが今までのAIと違うフェーズに入りましたということです」
従来の「物知りのAI」から「考えるAI」への転換が始まっているという。
「今までは大規模言語モデルということで、物知りのAIモデルが広まっていました。今は考えるAIの時代になってきたので、物知りというよりも、なぜそうなるかを考えて、数学的にこういう順番で解いていきましょうみたいなことができるAIになってきました」
OpenAIが国際数学オリンピックの金メダルレベルのモデルを開発したことも、この変化を象徴している。
「考える力が一気に伸びたんですよね。そこからどんなことが起こるのかというのが一つ大きな流れかなと思います」
一方で、未来予測の困難さも強調する。
「変化が激しすぎて読めない時代になってきている。OpenAI内部の人たちも自分たちにもわからないので、複数の実験プロジェクトを同時並行で走らせて、たまたまそれがポンとうまくいったら製品を作るという形になっています」
AIの進歩は技術的特異点(シンギュラリティ)の入り口に差し掛かっている可能性があるという。
「全く未来が読めない段階に入ってきたので、シンギュラリティの入り口に差し掛かったのかなとも言えるかなと思います」
アンソロピックは2025年秋に東京オフィス開設と日本語版Claude投入を予定しており、日本市場への本格参入も控えている。理念と収益性の両立という困難な課題に挑みながら、同社がAI業界でどのような地位を築いていくのか、その動向が注目される。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)