共働き世帯の増加を背景に、住宅ローンを夫だけでなく妻の名義も活用して夫婦で借りる人も増えてきている。妻名義を活用できる住宅ローンは2種類あるが、メリットもある反面デメリットもあるため要注意だ。

妻の名義も使って借りる住宅ローンは2種類

ほしい物件はあるのだけれど予算が届かないなどの理由がある場合、住宅ローンを夫婦で借りる選択肢がある。2人で借りる場合、夫だけでなく妻名義でも借りるのが一般的だ。夫と妻の名義で借りられる住宅ローンは2種類ある。

ペアローン……住宅ローンを2つに分けて夫と妻それぞれの名義で借りる

妻名義でも借りられて、多くの金融機関で取扱いのある住宅ローンが「ペアローン」だ。ペアローンは借入金額に対し、夫と妻それぞれの名義で住宅ローンを組む方法だ。借入金額が5,000万円としたら、夫3,000万円、妻2,000万円というように住宅ローンを分けて契約することができる。

特徴としては夫と妻それぞれの名義で借りるため、住宅ローンを2本借りている状態になることだ。住宅ローンが夫と妻で別々のため、返済義務も自分の借りている住宅ローン契約に対して負うことになる。もちろん住宅ローン控除などの制度も夫と妻それぞれが利用できる。
 

契約 債務者 債務者
住宅ローン控除 できる できる
すまい給付金 申請可 申請可
団体信用生命保険 対象 対象
名義 できる できる

(※筆者作成)

連帯債務型住宅ローン……1つの住宅ローンを夫と妻の名義で借りる

ペアローンとは違い、主たる債務者である夫に対し妻が連帯債務者になる住宅ローンもある。連帯債務型では夫と妻の収入を合算して1つの住宅ローンを借り、夫婦ともに債務者になる契約だ。夫が5,000万円の住宅ローンを契約すれば、連帯債務者である妻にも同額の返済義務が発生する。言い換えれば、夫婦で同じ住宅ローンを一緒に借りている状態だ。

連帯債務型住宅ローンでは夫と妻の名義もそれぞれ存在し、一般的には頭金の割合をもとに持分割合を決定する。例えば5,000万円の物件に対し夫が700万円、妻が300万円の合計1,000万円の頭金を用意する場合、持分割合も夫が70%、妻が30%になるよう出資割合とそろえるのが通常だ。住宅ローン控除も持分割合に応じて夫と妻がそれぞれ受けられる。

連帯債務で契約できる代表的な住宅ローンは「フラット35」だが、民間金融機関が提供する住宅ローンの商品数としては少ないのが現状だ。
 

契約 主たる債務者 連帯債務者
住宅ローン控除 できる(持分割合に応じる) できる(持分割合に応じる)
すまい給付金 申請可 申請可
団体信用生命保険 対象 対象外(夫婦連生で加入可)
名義 できる できる

(筆者作成)

夫婦で借りるが妻の名義にはならない連帯保証型の住宅ローンもある

連帯債務と似た住宅ローンとして、連帯保証型の住宅ローンがある。連帯債務型では夫と妻が一緒に住宅ローンを借りて名義もそれぞれ存在するのに対し、連帯保証型では妻と収入合算するものの夫のみが住宅ローンを契約する形態だ。妻は連帯保証人になり住宅ローンの債務は負わないが、夫が返済できなくなると妻にも返済義務が発生する。実質的には夫と妻が住宅ローンを一緒に借りているのと変わらない。

ペアローンや連帯債務型と異なるのは、契約に妻の名義がないため住宅ローン控除や団体信用生命保険も対象外であることだ。
 

契約 債務者 債務者でない(連帯保証人)
住宅ローン控除 できる できない
すまい給付金 申請可 申請可だが要件あり
団体信用生命保険 対象 対象外
名義 できる できない

(※筆者作成)

住宅ローンで妻名義を活用する場合はデメリットに注意

住宅ローンを夫名義だけでなく妻名義でも借りる最大のメリットは、片方の収入だけでは借りられない住宅ローン金額を借入できることだ。夫と妻の名義で借りるペアローンと債務連帯型では、住宅ローン控除などの制度をそれぞれ利用できるのも大きなメリットである。片方だけの名義で借り入れる連帯保証型では制度面でここまでのメリットはない。

夫婦で住宅ローンを借りるメリットは大きいが、妻の名義を活用するペアローンと連帯債務型は特にデメリットに気をつけたい。

ペアローンのデメリット

ペアローンのデメリットは以下だ。

  • 住宅ローンが2本のため手続きも2本分になり諸費用が通常よりかかりやすい
  • 団体信用生命保険に加入していても先立たれた配偶者の住宅ローンは残る

    ペアローンは夫と妻の別々の手続きになるため、諸費用が膨らみやすいことと夫婦の片方が死亡しても残された配偶者には自分の住宅ローンが残ることがデメリットである。夫と妻どちらか片方が死亡した後も無理なく返済していくためには、契約の段階で夫婦それぞれに適切な住宅ローン比率にすることが大切だ。

連帯債務型住宅ローンのデメリット

連帯債務型の住宅ローンのデメリットは以下が挙げられる。

  • 民間金融機関では連帯保証人が団体信用生命保険に加入できない可能性がある
  • 取扱金融機関が限られている

    連帯債務型はそもそも取扱金融機関が少ないが、民間金融機関だと連帯保証人が加入できる団体信用生命保険が用意されていないことがあり注意が必要だ。その場合は通常の生命保険を団体信用生命保険の代わりに利用するか、夫婦連生の団体信用生命保険のあるフラット35も検討対象に入れよう。

ペアローンと連帯債務型住宅ローンの共通のデメリット

ペアローンと連帯債務型住宅ローン共通のデメリットもある。

  • 借入額が大きくなりやすく収入減で返済に困るリスクがある
  • 妻が出産などで退職すると住宅ローン控除を受けられない
  • 離婚しても住宅ローン契約は変わらず揉める可能性がある
  • 名義が分かれているため家を独断で売却できない

    共通しているのはライフスタイルの変化に対応しづらいことだ。長い人生の中では何が起こるわからないため、夫婦2人の名義で借りる住宅ローンでは柔軟性が損なわれやすいというデメリットもある。

住宅ローン借入に妻名義を活用するならデメリットをよく理解しておく

住宅の取得費は年々上昇しており、物件によっては夫だけでは希望金額の住宅ローンを借りられないケースもあるだろう。そのような時は夫と妻の名義で住宅ローンを組むという選択肢もあるが、住宅ローンの返済額は家計に占める割合も大きくなりやすい。妻名義も使って住宅ローンを組む場合は、デメリットをよく理解し将来のことをイメージしてから検討しよう。

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文・國村功志(資産形成FP)
 

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