ポーランドをディケンズの家族、アンデルセンをウクライナ難民とみると、最初は善意から歓迎した事項も時間の経過と共に、その善意が重荷になってくる。それは珍しいことではなく、多くの人が程度の差こそあれ人生で何度かは経験することだろう。これは国にも当てはまる。

ポーランドではロシア軍の侵略を受けるウクライナを支援することで与野党の間には大きな相違はなかった。ただ、ロシアがウクライナ産穀物の黒海経由での輸出にストップをかけて以来、安価なウクライナ産穀物がポーランド市場に流れ、ポーランドの農民たちがウクライナ産穀物の流入に反対したため、政府はウクライナ産穀物の取引禁止策を取らざるを得なくなり、、ポーランドとウクライナ間で一時期不協和音が流れたことがあった。

ところで、ポーランドで6月1日、大統領選挙の決選投票が実施され、愛国主義的右派の野党「法と正義」(PiS)の候補者カロル・ナブロツキ氏が親欧州派の与党リベラル派「市民プラットフォーム」(PO)が支持するラファウ・チャスコフスキ氏を破り、当選した。ナブロツキ氏が当選したことで、大統領府をPiS、政府が与党POが主導するというねじれ関係が今日まで継続されている。ナブロツキ氏は選挙戦中でもポーランド・ファーストを掲げ、ウクライナ支援の見直しを主張してきた。

ウクライナへの支援は単なる善意ではなく、欧州全土の安全保障を守るか否かの問題だ。それにしても、戦争が長期化し、その停戦の見通しが立たない現状では、避難民を収容するという善意の政策もその時々の政治、経済事情に影響される。ちなみに、ナブロツキ大統領の拒否権をひっくり返すには、議会の3分の2の支持が必要だが、トゥスク現政権はそれを有していない。

なお、2015年夏、中東・北アフリカから多くの難民が欧州に殺到、ドイツには100万人の難民が殺到した。当時のメルケル首相は人道的視点から難民のウエルカム政策を実施し、難民を受け入れていった。あれから10年が経過したが、政治家や国民の間には難民ウエルカムの痕跡はもはや見られない。同時に、ポーランドと同様、シリア難民やウクライナ避難民への支援カットが囁かれている。欧州各地で‘自国ファースト‘を主張する政治勢力が台頭するなど、難民、避難民に注がれてきた「善意」は次第に限界を迎えている。