“鍵が開く”ようにして原料モノマーに戻す

 そもそもの発想の起点は何だったのか。

「プラスチックはモノマー同士の結合が半永久的で壊れないということになっていますが、もしこの結合を可逆的、リバーシブルにしたらどうなるのか。プラスチックは容易にモノマーに戻せるようになりますが、力学的に弱いプラスチックしか得られないでしょう。結合の可逆性に鍵をかけ、プラスチックに十分な強度を維持させながら、必要に応じて鍵を開け、モノマー分子に戻せるようにすれば、物質代謝がおこるようになり、問題が解決するはずだと考えました。モノマーが炭素を含まなければ、温室効果ガスである二酸化炭素を排出することもありません」(相田教授)

 リサイクルに伴うプラスチックの弱点も解決するという。

「従来のプラスチックは無限にリサイクルできるわけではありません。なぜかというと、リサイクルの工程で原料にまで戻しているわけではなく、粉々に砕いて溶かして成型しているためです。例えばリサイクルしてポリエチレンの白い容器をつくった場合、最初の強度は出ません。一方、超分子プラスチックは原料モノマーにまで戻す(水平リサイクル)ことが可能ですので、毎回100%新品のプラスチックをつくることができます」(相田教授)。

海外の企業から大きな反響

 どのような用途が想定されるのか。

「できればパッケージングなど、廃プラスチック問題の原因になっている部分に使えるように磨き込んでいきたいと思っています。廃プラスチック問題を少しでも軽減できれば本望です。世界の耕作地の3分の1は農業ができない土壌になっているのですが、肥料に使われているモノマーからできた超分子プラスチックは、農業用地の拡大に貢献できるかもしれません。いずれにせよ、従来とは全く違った価値観で考える必要があります。プラスチックが発明されてから約100年がたち、改良が重ねられ低コストで製造できるようになったことで、業界全体がコンサバティブになっており、マイクロプラスチックのような問題が発生しても“現状を変えたくない”という力が働きます。ですが、特に欧州などでは環境負荷低減に関する基準を守らなければ企業はビジネスを展開できないという状況になりつつあり、企業が本気で取り組む必要に迫られています。

 全く表面を加工せずに使うと、汗が垂れただけで溶けてしまうということが起こりえるかもしれませんが、今のプラスチックを100%、超分子プラスチックに置き換えるのは容易ではないと思います。塩水に触れない環境で利用されるプラスチックも多々あります。建築素材やインテリア、壁の中に入っているものなどですね。ラミネーションやコーティングをせずにそのまま使える用途も少なくないと考えています。現在はできるだけ種類を増やし、触り心地の改良などを含め、多様なニーズに応えられるように努力をしています」(相田教授)

 気になるのが、実用化に向けたロードマップだ。

「日本よりも海外の企業からの反響が大きく、大小80社ほどから問い合わせがありました。大手の海外ベンチャーキャピタルなども興味を示しています。我々自身が製造会社を作るというかたちではなく、製造技術を有する企業と提携してプロモーションするかたちを想定しています。実用化が始まるメドとしては、個人的には3年後くらいかなというイメージを描いています」(相田教授)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=相田卓三/東京大学卓越教授)