本研究によって、長らくブラックボックスとされてきた量子トンネル内部での電子ダイナミクスが明らかになりました。

電子がトンネル内部で何もせず「瞬間移動」しているのではなく、実際には内部で障壁の壁との相互作用を起こし、エネルギーを獲得していたという事実は、量子世界が私たちの想像以上に豊かな物理現象で満ちていることを示しています。

この発見は基礎科学として興味深いだけでなく、応用面でも大きなインパクトを持ちます。

電子トンネルの過程を詳細に理解できたことで、今後は電子の動きをより精密に制御できる可能性が開けました。

例えば半導体や量子コンピュータ、超高速レーザーなど、トンネル効果に頼る先端技術の効率や性能を一段と高めるための新しい指針となるかもしれません。

実際、研究チームは、この研究成果は電子が原子内の障壁を通過する際の挙動を理解する重要な手がかりになると評価しており、今後のさらなる制御技術の発展に期待を寄せています。

最後に、今回の成果が教えてくれるのは、「トンネルの中」は決して空っぽの空間ではないということです。

従来ブラックボックスと考えられていたトンネル内部は、実際には電子が行き来してエネルギーを蓄えるという豊かな現象が繰り広げられていました。

ミクロの世界は「何もない空洞」どころか、私たちの想像以上に活発でダイナミックな舞台だったのです。

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元論文

Unveiling Under-the-Barrier Electron Dynamics in Strong Field Tunneling
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.134.213201

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。