今回の研究によって、植物ウイルスササゲモザイクウイルスが他のウイルスにはない特別な免疫活性化メカニズムを持つことが初めて明確に示されました。

この発見は、ササゲモザイクウイルスを使ったがん免疫療法を今後発展させていく上で重要な道標となるでしょう。

研究チームもスタインメッツ教授の言葉として、「今回の研究により、ササゲモザイクウイルスが免疫を刺激する詳しい仕組みについて重要な知見が得られました。

現在は、最も有効で安全な候補を選定し、人への臨床試験を実現するための次の段階に取り組んでいます」と述べており、近い将来の臨床応用に向けて動き出しています。

実際、今回の論文の筆頭著者であるAnthony O. Omole氏をはじめ研究チームは、ササゲモザイクウイルスをヒトの治療に向けて最適化し、できるだけ早く臨床試験へと移行するべく精力的に研究を進めています。

もしササゲモザイクウイルスが人のがんでも有効性を示せば、このアプローチは画期的な治療法となる可能性があります。

なぜなら、遺伝子改造など特別な加工を施すことなく天然のウイルス粒子をそのまま利用でき、しかも植物を宿主として比較的容易に生産できるため、製造コストが非常に低く抑えられるからです。

極端に言えば、畑で育てた黒目豆の植物から抽出するだけで治療薬が作れてしまう可能性があるのです。

さらにササゲモザイクウイルスは一種類のがんに限らず様々ながん種で効果を示す可能性があり、一度免疫を教育すれば転移した遠隔の腫瘍も追跡して排除できるという理想的な全身効果(アブスコパル効果)も期待できます。

もちろん、実際の患者で安全かつ効果的かどうか確認するには慎重な臨床試験が必要ですが、スタインメッツ教授は「今こそ、この研究を実験室レベルから臨床試験に向けて進める段階に来ています」と述べています。

黒目豆由来の小さなウイルスが人間の免疫の力を呼び覚まし、がん征圧の切り札となる日が来るかもしれません。