また、研究チームはこの崩壊過程において放出される陽子のエネルギーを正確に測定しました。
ところが、その測定結果を従来の理論的予測と比較すると、予想外の興味深い結果が浮かび上がりました。
従来の理論では、「アイソスピン対称性」と呼ばれる考え方が存在します。
これは、陽子と中性子を区別せず、「核子」という同じ粒子として扱ったときに、陽子と中性子の数を入れ替えただけの鏡のような関係にある原子核(ミラー核)は、同じようなエネルギー状態を持つはずだとする理論です。
今回のアルミニウム20についても、この対称性からエネルギー値を推測していました。
しかし、実際に測定したエネルギー値は、この理論的予測値よりも明らかに低いものでした。
これはつまり、アイソスピン対称性が完全には成り立っていない、すなわち「対称性が破れている」ことを示唆しています。
この予想外の結果は、アルミニウム20の原子核の中で起きている現象が、これまで考えられていたよりも複雑で興味深いことを意味しています。
このアイソスピン対称性の破れとは、具体的に何を意味するのでしょうか?
『鏡』が壊れた?アイソスピン対称性の破れとは

今回の実験で最も興味深いのは、「アイソスピン対称性の破れ」という現象です。
これは、原子核という非常に小さな世界で起こる、粒子同士のバランスの崩れを示す言葉です。
しかし、「アイソスピン対称性の破れ」と言われても、具体的に何が起こっているのか、すぐにはイメージしにくいかもしれません。
そこで、まずはこの対称性が何を意味するのかを簡単に見てみましょう。
原子核の中には「陽子」と「中性子」という2種類の粒子が存在しています。
この2つの粒子は「核子」と呼ばれ、強い核力という力で互いに引き寄せられています。
この核力は、陽子同士でも中性子同士でも、あるいは陽子と中性子の間でも同じように働きます。