自己効力感や決断の正当性への脅威
後戻りするという決断は、「自分の過去の選択が誤っていた」という事実を受け入れる必要があります。これは自己効力感(自分の判断への自信)を脅かし、恥や敗北感といった否定的な感情を引き起こす可能性があるため、無意識に回避されがちです。
この心理は、後戻りが物理的に困難だったわけではなく、合理的に考えれば「戻った方が確実に利益を得られる」状況でも示されているため、この傾向が合理性ではなく感情に強く左右されていると指摘しています。
今後の課題として、研究チームは「どのような状況で人はこの心理バイアスを乗り越えられるのか」を探る必要があるとしています。たとえば、「後戻り」が恥ずかしい、無駄に見えるという文化的背景や、自尊心との関係なども検討すべきでしょう。
また、この研究は教育やビジネス、都市計画など、さまざまな分野での応用も考えられます。たとえば、経路が複雑な施設の案内表示を工夫したり、失敗からのやり直しを前向きに捉える教育を行うことで、人々の判断ミスを減らすことができるかもしれません。
一見単純に思える「戻るか、進むか」の選択には、私たちの意思決定を揺さぶる深い心理メカニズムが隠されているのです。
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参考文献
Scientists reveal a widespread but previously unidentified psychological phenomenon
Scientists reveal a widespread but previously unidentified psychological phenomenon
https://www.psypost.org/scientists-reveal-a-widespread-but-previously-unidentified-psychological-phenomenon/
元論文
Doubling-Back Aversion: A Reluctance to Make Progress by Undoing It
https://doi.org/10.1177/09567976251331053