電気は文明の進化に不可欠ですが、その発展は石油時代の到来後に本格化しました。水力、石炭、天然ガス、原子力、風力、太陽光など多様な方法で発電できますが、発電所や送電網、蓄電システムの建設・維持には石油化学製品から作られる部材や機器が欠かせません。石油なしでは、そもそも「電気を作るための設備」が存在しえないのです。
さらに、スマートフォンやパソコン、家電製品など、電気を必要とするあらゆる機器も石油由来の素材を用いています。「石油を完全になくし、電気だけで暮らす」という構想は、技術的・経済的に見ても極めて非現実的です。
脱炭素の落とし穴
もし化石燃料の使用を短期間で大幅に削減すれば、世界は200年前の生活水準に逆戻りしかねません。現在でも約7億人が国際貧困ライン以下で暮らしています。化石燃料は、こうした人々が豊かで健康的な生活を手に入れるための重要な手段です。それを失えば、格差の固定化や人道的危機が進行する恐れがあります。
人類は200年以上を費やしても、石油製品や燃料の供給を完全に置き換える技術を確立できていません。それにもかかわらず、化石燃料を一律に「悪」と決めつけ、その供給を断つことは極めて危険です。現実には、石油がなければ電気も現代社会のインフラも維持できないのです。
エネルギーリテラシーを高める
「風力と太陽光は電気しか作れない」という事実を、政策立案者や市民が正しく理解することが不可欠です。エネルギーシステム全体の構造や依存関係を理解しないまま推し進める政策は、社会や経済の基盤を脅かしかねません。化石燃料と再生可能エネルギーの役割を冷静に評価し、現実的で持続可能なエネルギー戦略を設計するためには、エネルギーリテラシー(基礎的理解)の向上が欠かせません。
感情や理想だけでなく、科学的事実と供給網の実態に基づく議論こそが必要です。そうしなければ、私たちは豊かで健康的な暮らしを次世代へ引き継ぐことができなくなるでしょう。