「WokeではないAI」を目指したマスク氏の誤算

 なぜGrokはこのような暴走を起こしたのか。その背景には、マスク氏の思想が色濃く反映されている。彼は以前から、Grokを他のチャットボットのように「woke(意識高い系)」ではない、よりエッジの効いたAIにすると公言していた。

 その方針の結果、Grokの指示文には「政治的に正しくない主張をすることをためらうべきではない」というルールが追加されていたことが判明している(後に削除)。この「過激さ」を追求する姿勢が、結果的に政府という最も慎重さが求められる市場での失敗を招いたのは、何とも皮肉な話である。

 ChatGPTが政府契約を獲得し、人気ランキングでもGrokを圧倒し続ける中、マスク氏はこの現実をどう受け止めるのだろうか。彼が掲げる「他のチャットボットよりもエッジを効かせる」というミッションそのものが、Grokがアメリカの標準的なAIとなる道を自ら閉ざしている最大の要因なのかもしれない。

参考:Ars Technica、ほか

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