◆初夏の頃、久しぶりに横須賀市(神奈川県)の猿島を散策した。日露戦争で活躍した戦艦「三笠」が保存されている三笠公園の隣の桟橋から船で約10分の沖合にある猿島は、東京湾で唯一の自然島であり無人島。要塞として幕末から第2次世界大戦まで東京湾を守り、今も砲台や弾薬庫、兵舎など往時の遺跡がある。

◆東京近接にして原生林などの自然と要塞跡が共存する希少なロケーションから、「仮面ライダー」や「西部警察」など多数のドラマや映画の撮影が行われている。れんが造りの兵舎にツタが絡まり、砲台に木の根が這う風景は、宮崎駿監督のアニメ作品「天空の城ラピュタ」のシーンを連想させると今や横須賀観光のハイライトになっている。

◆神奈川県公式観光サイト「観光かながわNow」によれば、SNSの投稿で猿島は三浦半島エリアでインバウンド観光客に際立って人気がある。「国内観光客(日本語)の投稿数3位に対して、インバウンド観光客(5言語合計)の投稿数は断トツ1位。中国語(簡体字)やベトナム語ではアニメの情報やシーンと合わせて投稿されている可能性が高いことが分かった」(※投稿量は全数ではなくサンプルより算出、同サイト)という。

◆約20年前に初めて猿島を探訪した時、同島行きのフェリーで中華系のカップルと乗り合わせたが、当時は今ほど日本人にも知名度がなく、SNSも普及していなかった。「(猿島を)よく知ってるね…」と思った記憶がある。

◆猿島に限らず、SNSで拡散され人気スポットとなった歩道橋(富士市、眼前に富士山)や江ノ島電鉄鎌倉高校前駅の踏切(鎌倉市、アニメ「スラムダンク」に登場)、JR高山線飛騨古川駅(飛騨市、アニメ「君の名は。」で主人公が訪れた)、伊予鉄道梅津寺駅ホーム(松山市、ドラマ「東京ラブストーリー」の最終回などの舞台)など、日本人より外国人観光客が敏感に反応し、新しい観光名所となった所が日本国内で数多く生まれている。

◆かつて韓国ドラマ「冬のソナタ」が日本で大ブームを巻き起こし、ロケ地巡りに日本の女性がソウルや春川に殺到したことがあったが、今の日本には当時のような集団的な熱さや、インバウンド客のように外国で新名所を発掘する旺盛なパワーは感じられない。この変化の理由は日本人の興味の範囲が広がり旅行文化が成熟したからなのか、それとも失われた30年と共に元気も失ってしまったからなのか…考察を続けたい。(宗) (記事提供元=時事通信社) (2025/08/13-06:00)