「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
(画像=『ナゾロジー』より引用)

生体工学技術の進歩は、医学の発展に大きく寄与してきました。

例えば、生体工学は義肢技術に革命を起こすだけでなく、聴覚インプラントの開発を助けました。

そして多くの専門家が次に大きな革命を起こすのは、「生体工学網膜」だと考えています。

今回は、生体工学角膜の現状と将来の課題についてご紹介します。

目次
現在の生体工学網膜は人や物の輪郭が分かる
将来、生体工学網膜は革命を起こすのか?

現在の生体工学網膜は人や物の輪郭が分かる

SF小説や映画に登場する義眼は本来の眼球よりも高性能であり、現実ではありえないものです。

しかし近年では、それらも全くの空想とは言えなくなってきました。視力を復活させる生体工学技術が実際に登場しているのです。

当然、現段階で科学者たちが目指しているのは「生体工学網膜の性能をより本物に近づける」ことです。

そしてこれまでに開発されてきた技術は、すでに眼の性能を部分的に再現できています。

「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
(画像=Argus II / Credit:Second Sight、『ナゾロジー』より引用)

例えば、失明治療デバイスを手掛けるアメリカの企業「Second Sight」は、「Argus II」と呼ばれる網膜インプラント技術を生み出しています。

これは遺伝性疾患により失明した人を治療するために用いられる技術です。

Argus IIは手術によって患者の網膜に埋め込まれます。

そして眼鏡型カメラから得られた画像がワイヤレスでArgus IIに送信され、脳はそれを光として解釈できるようになるのです。

現段階で装着者は人物や周囲の輪郭、影、大きな文字を見ることができます。

「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
(画像=BVT Bionic Eye System / Credit:Bionic Vision Technologies、『ナゾロジー』より引用)

さらに注目できるもう1つの開発は、オーストラリアのメルボルンを拠点とする「Bionic Vision Technologies」社が開発した「BVT Bionic Eye System」です。

こちらもカメラを通して得られた画像を網膜の後ろに埋め込まれた電極アレイに送信するという技術であり、ある程度の視力回復を実現しています。

実際、Bionic Vision Technologies社の2月28日付けのニュースによると、50歳の父親がBionic Eyeによって息子と娘の姿を初めて見ることができたとのこと。

将来、生体工学網膜は革命を起こすのか?

「生体工学網膜」が失明治療に革命を起こす?
(画像=Argus IIのイメージ / Credit:Second Sight、『ナゾロジー』より引用)

生体工学網膜の進歩はめざましく、現在でも実際に人々を失明から救っています。

将来的に外部カメラを必要としない「完全な生体工学網膜」が開発されるかもしれません。

ただし、これらが世界に革命を起こすには技術向上だけでなく、手頃な価格で提供できるようにならなければいけません。

なぜなら、世界における失明の89%は経済的に貧しい国で生じているからです。

それらの国の人々は失明を回避するための基本的な治療をおこなう余裕がないのです。当然、失明したからといって高価な生体工学角膜を入手することはできません。

そのため比較的安価な生体工学網膜が完成するなら、それは世界に革命を起こすことになるでしょう。

しかしその革命は正しい姿ではないかもしれません。生体工学網膜は対処療法にすぎないからです。

ですから開発と並行して、貧しい国では失明に至る眼病の予防または治療が積極的になされるべきです。

失明の根本的な原因を減らし、やむを得ない場合に生体工学網膜を利用することが、本来目指すべき姿だと言えるでしょう。

【編集注 2020.03.09 14:00】
記事内容に一部誤りがあったため、修正して再送しております。


参考文献

Bionic Cornea Are a New Horizon in Curing Blindness


提供元・ナゾロジー

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