世の中には「存在するのが当たり前」すぎて、その理由や役割について、全く意識しないトピックも珍しくない。
以前X上では、ガソリンスタンド内で必ず目にする「ある設備」の理由をめぐり、驚きの声が上がっていたのだ。
■ガソリンスタンドの「溝」は邪魔?
ことの発端は、とあるXユーザーが投稿した1件のポスト。
「このまえ自転車乗ってたら、ガソスタによくあるこの溝に引っかかってコケた」と綴られた投稿には、ガソリンスタンドの敷地を分ける境界線のように引かれた「溝」の写真が添えられている。
言われてみればガソリンスタンドで必ず目にするこの溝、自転車のタイヤと同じくらいの幅をしており、転んでしまうのも無理はないだろう。
■「そんな重要な理由が…」とネット民驚き
似たような経験のある人は、思わず頷いてしまいそうなポストである。だが、こちらの投稿に対し、東京都港区にある「たけ内科 新橋駅前院」の院長・竹内翔祐氏が反応。
引用リポストにて「これ、ガソリンこぼした時に広がらないようにするための法的に必要な溝だから堪忍な」と、驚きの事実を告げたのである。
こちらの投稿は瞬く間に話題となり、Xユーザーからは「知らなかった…」「自転車をコケさせるためのものと思っていました」「クレームを受けても、決して撤去しちゃ駄目なやつだ」「そんな重要な理由があるなら、しゃーない」など、驚きの声が多数寄せられていた。
そこで今回は、ガソリンスタンドの「溝」の詳細を探るべく、関係各所に取材を実施することに。すると、一見すると通行の邪魔に感じられた「溝」の役割が、改めて明らかになったのだ。
■ガソリン以外の「ある液体」も防いでいた
まずはガソリンスタンド、およびサービスステーションを運営する企業としては国内最大手の「ENEOS」に話を聞いてみる。
すると、同社からは「消防法の定めにより、給油所内の漏れた油や洗浄水等が、敷地外や公共下水に直接流出しないように排水溝が設けられています(危険物等の流出防止措置)」との回答が得られた。
どうやら引火の恐れがあるガソリンだけでなく、「洗浄水」を防ぐ役割も果たしているようだ。
■「溝」が続いている場所は…
続いては、法的な観点からの回答を得るべく、総務省 消防庁に話を聞いてみることに。
すると、取材を快諾してくれた同庁・危険物保安室の担当者は、「危険物の規制に関する政令第17条(いわゆる『ガソリンスタンド』の基準)」の第1項第5号の存在を挙げる。
その内容は「給油空地及び注油空地には、漏れた危険物及び可燃性の蒸気が滞留せず、かつ、当該危険物その他の液体が当該給油空地及び注油空地以外の部分に流出しないように総務省令で定める措置を講ずること」というもの。
そして総務省令では、その措置として「当該給油取扱所内の固定給油設備(令第17条第1項第1号の固定給油設備をいう。以下同じ)(ホース機器と分離して設置されるポンプ機器を除く)又は固定注油設備(ホース機器と分離して設置されるポンプ機器を除く)の一つから告示で定める数量の危険物が漏えいするものとした場合において、当該危険物が給油空地及び注油空地内に滞留せず、火災予防上安全な場所に設置された貯留設備に収容されること」を定めているのだ。
この「火災予防上安全な場所に設置された貯留設備」と言うのが重要である。

ガソリンスタンド内にある「溝」の役割について、危険物保安室の担当者は「給油取扱所内でガソリン等が漏洩した際に、給油取扱所敷地外(道路側溝や公共下水道等)に流出を防止すると共に、溝を通じて給油取扱所に設置されている貯留設備に流す役割となります」と、分かりやすく説明してくれたのだ。
我々の生活に無くてはならないガソリンスタンドでは、一歩間違えれば大きな事故も起こり得る。一見すると邪魔に感じられる件の「溝」は、そんな大事故を防ぐという、非常に重要な存在だったのだ。