規制環境の不確実性といった重要な課題

 現在、タイのベンチャーやスタートアップを取り巻く環境はどのような状況なのか。タイのビジネス界は、新興企業が次々と立ち上がるような活性化された状況なのか。

「タイのベンチャー・スタートアップ環境は、政府の『Thailand 4.0』戦略やデジタル経済の急速な成長に支えられ活発化しています。特にAI、サステナビリティ技術、フィンテック分野が成長を牽引しており、現在は約2,100社のスタートアップが存在しています。なかでもフラッシュ・エクスプレスやAscend Moneyなど、複数のユニコーン企業も誕生しています。

 しかし、このような成長の裏側には高度な技術人材の不足、ミドル~レイトステージにおける資金調達の困難さ、そして規制環境の不確実性といった重要な課題が存在します。なかでも規制環境の不確実性は、投資家や外資系企業にとって最も深刻なリスクの一つとされています。

 具体例として、タイでは2022年に嗜好用大麻が合法化され、国内外から数千万~数億バーツ規模の投資が一気に流入しました。しかし2025年現在、政府は再び大麻を違法薬物として規制対象に戻す方針を正式に打ち出しており、すでに事業を展開している企業にとっては大きな打撃となっています。健康や青少年保護といった建前の一方で、政争や利権争いが方針転換の背景にあるとの見方もあり、法制度や規制の予測可能性に疑問符が付く状況です。

 このように、タイには投資家や起業家が将来の見通しを立てにくくなるような不透明な要素が依然として存在しています。これらの課題を克服し、人材育成、資金調達環境の整備、そして規制の透明性・安定性の確保を進めることが、タイがASEAN地域のデジタル経済ハブとしての地位をさらに確立するための鍵となるでしょう」(溝口氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=溝口陽平/Asset & Accounting Advisors)