YouTubeで公開・収益化されているチャンネルも

 では、どのような用途・目的の動画の制作に向いていると考えられるか。

「すでにVeo 3で作られたキャラクター動画や、会話形式の短編がYouTubeで公開・収益化されているチャンネルも存在します。特に自然な発話やカメラワーク、映像と音声の一体感を活かした表現は強みといえるでしょう。ただし、カメラの完全なコントロールは難しく、絵コンテ通りの映像を制作するような現場での導入は難しいと思います。偶然性や曖昧さを許容できるケースに限られそうです。一方で、直感的に高品質な映像を生成できるため、教育、広報、企画プレゼン、試作映像やストーリーボードの代替としては非常に有用だと感じました」

 テレビCMを制作しようとした場合、どれくらいの時間・労力が必要になると考えられるか。

「実際、NBA中継で放送されたCMがVeo 3で制作された事例があり、制作期間はわずか2日間だったそうです。簡単なプロンプトでも完成度の高い映像が得られる半面、狙い通りの演出を実現するにはかなりの試行錯誤と調整が必要です。また、Veo 3には『誰が作っても似た雰囲気になりやすい』という側面があります。個性やブランド性を重視する場面では、Veo 3だけで完結する制作手法は、現場での採用に至らない可能性もあるでしょう」(伊藤氏)

生成AIでつくったCMは増えてくる可能も

 もし日本で普及した場合、広告業界に大きな変化をもたらす可能性はあるのか。大手広告会社社員はいう。

「ナショナルクライアントのテレビCMの場合、有名タレントなどを起用するとなると企画から納品まで含めた制作期間は数カ月におよび、1本あたりの制作費は数千万円に上ります。生成AIを使えば制作期間もコストも大幅に削減されるのは間違いないですが、明らかに見た目的に『生成AIでつくりました』ということが分かるクオリティを、クライアントである企業が良しとするかどうか次第でしょう。また、生成AIによってつくられた動画が、すでに存在する他のコンテンツの著作権を侵害していないかどうかを、どう担保するのかという課題もあります。

 ただ、今の10~30代くらいの層は、普段からテレビほどクオリティが高くはないYouTubeやTikTokの“素人っぽい”動画などに慣れ親しんでいることもあり、生成AIによってつくられたテレビCMにそれほど違和感を感じないかもしれず、将来的には少しずつ生成AIでつくったCMは増えてくる可能性はあります。そうなると、従来の広告制作手法と多額の制作コストを前提に成り立っていた広告業界が少なくない影響を受けるかもしれません」

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=伊藤朝輝/ライター、システムエンジニア)