こうして見ると、たった3種類のタンパク質だけでできている比較的シンプルな時計の仕組みが、これほど高精度で24時間周期を生み出すということは、生物が長い進化の中で作り上げてきた非常に洗練された戦略であることがわかります。

生物は単純な仕組みを基本として使いながらも、ノイズを克服するためにタンパク質を余分に用意したり、集団としてのリズムを揃える仕組みを別途用意したりと、複雑で巧妙な工夫を加えているのです。

このような、生物が持つ巧みな仕組みを人工的な細胞で再現できた今回の研究成果は、生命が持つ基本的な設計原理を理解する上でも非常に重要な一歩となります。

将来的には、この人工細胞を使って、細胞の大きさが異なる他の生物がどのように時計の精度を維持しているのかを調べたり、人工的に安定した周期を持つ新たな細胞回路を作り出したりすることも可能になるかもしれません。

今回の研究で得られた知見が、より複雑な細胞システムの構築や、現実の細胞に近い人工的な生命体を作り出すための新たな研究分野にも、大きな影響を与えることが期待されています。

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参考文献

Tiny Artificial Cells Can Keep Time, Study Finds
https://news.ucmerced.edu/news/2025/tiny-artificial-cells-can-keep-time-study-finds

元論文

Reconstitution of circadian clock in synthetic cells reveals principles of timekeeping
https://doi.org/10.1038/s41467-025-61844-5

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。