「眠気はどんなメカニズムで引き起こされるのか?」

これは科学における大きな疑問の一つです。

そしてこのほど、英オックスフォード大学(University of Oxford)の最新研究で、その秘密の一端が明らかにされました。

それによると、脳内に存在する微小な「発電所」であるミトコンドリアのエネルギー過剰が、眠気の根本的な原因である可能性が示されたのです。

詳しくみてみましょう。

研究の詳細は2025年7月16日付で科学雑誌『Nature』に掲載されています。

目次

  • 眠気の発生源は「エネルギー過負荷」だった?
  • ミトコンドリアの「かたち」が睡眠量を決めていた?

眠気の発生源は「エネルギー過負荷」だった?

研究チームは今回、ショウジョウバエの脳から、睡眠を制御する神経細胞「dFBNs(dorsal fan-shaped body neurons)」を抽出し、睡眠不足の状態で何が起こるのかを細胞レベルで解析しました。

その結果、睡眠不足に陥った神経細胞(dFBNs)では、ミトコンドリアが電子を過剰に受け取って「飽和状態」に陥っていることが判明しました。

この電子は通常、酸素と反応してATP(アデノシン三リン酸=細胞のエネルギー通貨)を生成するために使われますが、供給量が需要を上回ると、行き場を失った電子が“こぼれ出す”のです。

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Credit: canva

次にこの電子の漏れは、活性酸素(ROS)という細胞にとって有害な副産物を生み出します。

チームは、この活性酸素の発生が「もう限界、眠らなければ」というシグナルとして、脳の一部の神経細胞に直接伝わることを突き止めました。

つまり、眠気は身体が休みたがっているというより、「脳が壊れないようにする緊急停止装置」のような働きであるというのです。

実際、ミトコンドリアからの電子の漏れを防ぐタンパク質(AOX)を神経細胞に導入したところ、睡眠欲求が減少。