“人気者にすり寄る人”の例えとしても知られるコバンザメですが、その吸着力が、実は人間の健康に役立つかもしれないのです。
そんな意外なヒントをもとに、マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームが開発したのは、水中や胃液といった過酷な環境でも、柔らかい組織にしっかりと張り付き続ける新型デバイス「MUSAS(Mechanical Underwater Soft Adhesion System)」です。
この技術により、胃の中で薬を長時間留めておくことや、魚や人の体にセンサーを貼り付けて体内外をモニタリングすることが可能になります。
この研究成果は、2025年7月23日付の科学誌『Nature』で発表されました。
目次
- コバンザメの驚異的な“吸着”構造とは?
- コバンザメからヒントを得た「胃の中でも剥がれない薬用デバイス」
コバンザメの驚異的な“吸着”構造とは?

コバンザメは、「サメ」という名前がついていますが、実際にはスズキ目コバンザメ科に属する硬骨魚類です。
熱帯から亜熱帯の海に広く分布し、体長は30cmほどのものから1mを超えるものまでさまざま。
最大の特徴は、頭の上にある楕円形の吸盤です。
この小判型の大きな吸盤には、板状の横縞(隔壁)が15〜28枚ほど並んでおり、水曜生物などに触れると、これら隔壁が垂直に立ち上がります。
そのことが吸着部の体積を増やすことになり、真空状態のように圧力を下げ、強い吸着力を生みます。
しかもこの構造、単純な吸盤とは違って水中や移動中の環境でも剥がれにくいという特性を持っています。

そしてコバンザメは、サメやウミガメ、クジラ、さらには人間のダイバーにまで貼り付くことで、「ヒッチハイク生活」を行います。