2018年10月5日、スルガ銀行は、投資用不動産に関連した不正融資によって、金融庁より極めて厳しい業務改善命令を受けている。しかし、スルガ銀行は、かつては、独自の顧客本位な戦略で成長してきた優良企業だったのである。どこに転落に至る罠があったのか。

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2000年に、スルガ銀行は、「コンシェルジュ宣言」を定めて、そこで、顧客の「夢をかたちに」し、顧客の「夢に日付を」いれることをもって、自己の社会的使命とした。人は、住宅をもちたい、車を買いたい、旅行に行きたい、海外留学したい、子供を私立学校にいれたいなど、様々な夢をもつが、資金が不足していることも多い。スルガ銀行は、そこに融資をすることで、夢に具体的なかたちを与え、夢が実現する日付を定めることをもって、事業戦略としたのである。
また、自分を「コンシェルジュ」として位置付けることは、銀行の立場での金融機能の提供ではなくて、顧客の夢に対して、顧客の真の需要に対して、顧客の視点で対応するという意味だから、まさに、今の金融庁のいう顧客本位の精神そのものであって、金融行政を先取りしていた敬服すべき経営方針であったというべきなのである。
しかし、スルガ銀行は、2016年4月に、自己の顧客に対する立場を「コンシェルジュ」から「夢先案内人」・「ドリーム・ナビゲーター」に変更したのである。顧客の夢に対して受動的に行動する「コンシェルジュ」から、顧客に対して能動的に働きかけて夢を創造していく「夢先案内人」、あるいは「ナビゲーター」への変更は、非常に危険な転身となった。
例えば、海外旅行に行くという夢をもつ顧客があって、夢の実現を前倒すためにローンを検討することは、典型的に夢に日付をいれることだから、銀行として前向きに対応することは少しも問題ではない。しかし、顧客の夢に積極的に働きかけて、ローン可能額の上限にまで旅行計画を大きく膨らますような営業話法をとることは、融資額を増やすためだけの明らかな逸脱であって、顧客の利益を損なう危険を冒すものである。