ところが近年、よく調べてみると刺胞動物に属するはずのイソギンチャクには少し不思議な点が見つかりました。
見た目こそ円形でどの方向からも同じように見えますが、実はイソギンチャクの胚(生まれる前の細胞の塊)の段階では、細胞が左右で異なる動きをしていることがわかっていました。
さらに成体でも、内部の構造には密かな「左右」が存在してたことが明らかになりました。
つまりイソギンチャクは「隠れ左右軸持ちの動物」と言えるかもしれません。
イソギンチャクはどんな左右対称性を隠し持っているのか?
イソギンチャクと言われて、みなさんはどんな姿を思い浮かべますか?海の底でゆらゆら揺れる、触手がたくさん生えた丸い姿です。確かに見た目だけで言えば、イソギンチャクは丸い花のようで、どこから見ても同じように見える「放射状」の形をしています。しかし、最近の研究によると、このイソギンチャクにも実は「左右軸を持つ」ことが分かってきました。驚くことに、それは胚(生まれる前の段階)ですでに始まっています。イソギンチャクの胚を詳しく調べると、ある特定のタンパク質(BMPやコルディン)が片側で強く働き、反対側では弱く働くことで、「左右の区別」が生まれていることが明らかになったのです。同様の胚段階での物質の偏りはカタツムリなどでもみられます。では、大人になったイソギンチャクにはどんな左右対称性があるのでしょう?実は大人のイソギンチャクも、内部では微妙に左右の違いが存在します。例えば、体の中の消化器官や生殖器官が完全な放射状ではなく、片側に寄って配置されていることがあるのです。外から見るだけでは分からないけれど、イソギンチャクも実は体の中にひっそりと「左右の軸」を隠し持っているわけです。
この発見は生物学者にとって、大きな謎を投げかけました。
それは、「地球上の動物はいつ、どのようにして左右を獲得したのか?」という疑問です。