しかし解析の結果、これは同じ恒星が2回にわたってブラックホールに接近し、2度破壊されかけたという、極めて異例の現象であることが示されました。
なぜブラックホールの捕食から生き残れたのか?
なぜこの星は一度飲み込まれたにもかかわらず、生き延びて戻ってこれたのでしょうか。
チームは、この恒星が完全に破壊されたのではなく、「部分的に破壊された」にすぎないと考えています。
つまり、ブラックホールが星を一口だけかじり取り、残りは再び軌道に乗って回り続けたというのです。
この星は現在、ブラックホールの周囲を約700日周期の楕円軌道で公転しており、最も接近した地点で再び「かじられた」ことで、2回目の閃光が生じたとされています。

このような繰り返しの破壊は、これまでの天文学の常識では考えられていませんでした。
TDE(潮汐破壊現象)は「一度きり」の破滅的な現象だと信じられていたからです。
しかし今回の「AT 2022dbl」と名付けられたこのフレア事例は「ブラックホールは時に“完食”せず、星を“スナック”のようにつまみ食いする」という可能性を示しています。
実際、この恒星が放った光の明るさや温度は、過去に記録された他のTDEとよく似ており、「これまで観測されてきたTDEの一部は、実は完全破壊ではなく部分破壊だった可能性がある」と研究者たちは指摘しています。
この発見は、これまでの観測データの解釈を見直す必要があることを意味します。
ブラックホールは、ただすべてを飲み込む絶対的な存在ではなく、時に“未遂”に終わることもあるのかもしれません。
ただ今回確認された奇跡の星が、2度目の捕食を生き延びたかどうかはわかりません。
今後、2026年にはこの星が再びブラックホールに接近すると予測されています。
もし3度目の閃光が観測されれば、この奇跡の星はまたしてもブラックホールの捕食から生き延びたことを証明するでしょう。