蝶の中には、一瞬「どっちが頭でどっちがお尻かわからない」ような種がいます。
これは翅(はね)の先っぽを頭と同じような形にしているためです。
つまりは、敵の目を欺くために進化させた“第二の頭”といえます。
とくにシジミチョウ科(学名:Lycaenidae)の仲間には、翅のほうに触角のような模様や目玉のような斑点、そして頭部を思わせる輪郭を備えた種が数多く存在します。
それはまるで、捕食者をだますための精巧なトリックアートです。
では、この「第二の頭」はどのようにして進化し、どんなメリットをもたらしてきたのでしょうか?
研究の詳細はインド科学教育研究所ティルヴァナンタプラム校(IISER)により、2025年7月9日付で科学雑誌『Proceedings of the Royal Society B』に掲載されています。
目次
- 頭がふたつ?偽の頭を作るチョウの進化戦略
- 5つの特徴はセットで進化している?
頭がふたつ?偽の頭を作るチョウの進化戦略
自然界では「命がけの騙し合い」が日常です。
捕食者に狙われる小動物たちは、ただ逃げるだけでなく、ときに相手の目を欺く“偽装戦略”をとります。
シジミチョウ科の多くのチョウが持つ「偽の頭(false heads)」もその一例です。
この“偽の頭”は、体の尾側にある模様や構造によって構成されています。

たとえば、
・触角のような形(偽触角)
・目玉に見える斑点
・頭部のような輪郭
・色彩のコントラスト
・線が一点に集まるような収束線
といった特徴が組み合わさることで、あたかも“後ろにもうひとつの頭がある”かのように見えるのです。
これにより、捕食者は頭だと思って狙った場所が実は後翅だった…という「見事な肩透かし」を食らうことになります。
この戦略のすごいところは、命にかかわる本物の頭を含む胴体部分を守りながら、羽の一部が裂けるだけで済むという点です。