この遺伝子は、細胞の“門番”のような働きをして、薬が細胞内にしっかり入るのを助けていたのです。

また、アスペリジマイシンはがん細胞の「細胞分裂」を止める力があることも判明します。

がん細胞は本来の細胞と違って無制限に分裂を繰り返しますが、この薬はその“分裂装置”である「微小管」の形成を妨げ、がんの増殖を食い止める作用があったのです。

特筆すべきは、この薬が白血病細胞に対してだけ強く働き、他の正常細胞や細菌にはほとんど影響を与えなかった点です。

これは副作用を抑えた、理想的な薬の特徴でもあります。

現在、チームは動物実験への移行を準備しており、将来的には人間への臨床試験を目指しています。

かつて「呪い」として恐れられてきた古代のカビが、最先端の医療を切り開く手がかりになる——そんなドラマのような話が、科学によって現実のものとなりつつあるのです。

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参考文献

Penn Engineers Turn Toxic Fungus into Anti-Cancer Drug
https://blog.seas.upenn.edu/penn-engineers-turn-toxic-fungus-into-anti-cancer-drug/

Deadly ‘pharaoh’s curse fungus’ could be used to fight cancer
https://www.popsci.com/health/cancer-pharoah-curse-fungus/

元論文

A class of benzofuranoindoline-bearing heptacyclic fungal RiPPs with anticancer activities
https://doi.org/10.1038/s41589-025-01946-9

ライター

千野 真吾: 生物学に興味のあるWebライター。普段は読書をするのが趣味で、休みの日には野鳥や動物の写真を撮っています。