実際、この回路の結合が強いほどマウスが後に取る「寝だめ」の時間も質も高くなっていました。

このことから研究チームは、この回路が睡眠負債の量を測る「脳内の物差し」の役割を果たしている可能性があると考えています。

「睡眠不足のツケ」を脳が自動で記録していた――人間への応用可能性は?

「睡眠不足のツケ」を脳が自動で記録していた――人間への応用可能性は?
「睡眠不足のツケ」を脳が自動で記録していた――人間への応用可能性は? / Credit:Canva

今回の研究によって、「睡眠不足が続くと、脳の中にある特定の神経回路が『睡眠負債』を記録し、あとでまとめて眠らせてくれる仕組みがある」ことが初めて示されました。

これまで漠然と「寝だめをする」と言われてきた現象が、実は脳内の具体的な神経回路によって正確に計算され、コントロールされていたということが明らかになったのです。

特に興味深いのは、視床の中心部にある小さな領域「リユニエンス核」がこの「睡眠負債」を計算している可能性が高いという点です。

私たちが寝不足になると、脳の中で「もっと寝なさい!」という命令を出す細胞が活発化し、その後に「寝だめ」をするための深い眠りを引き起こします。

しかも単に眠気を生じさせるだけではなく、寝る前に布団や枕を整えたり、歯磨きや洗顔をしたりする準備行動を促すこともわかりました。

マウスでさえ眠る前には顔を洗い、巣をふかふかに整えるというのですから驚きです。

さらに、この研究で注目すべきだったのは、この神経回路が寝不足状態が続くほどいっそう強化される点でした。

言ってみれば、睡眠不足になるほど「睡眠の借金帳簿」をつける脳内の回路が強化され、負債を返済するための準備を徹底的に整えるわけです。

この仕組みがあるおかげで、脳は自然に自分自身の健康を守るように働いていると言えます。

ただし現時点での結果はあくまでマウスのデータに限られます。

人間の脳でもまったく同じ仕組みが存在するかどうかはまだ分かりません。