また研究チームは、この特殊な「スピン流」が持つ情報伝達能力についても詳しく調べました。
グラフェンを使ったデバイスの中を、このスピン情報がどれくらい安定して伝わるのかを検証したのです。
すると驚くべきことに、数十マイクロメートルという電子の世界では驚異的な距離まで、スピンの情報がまったく乱れることなく伝わりました。
数十マイクロメートルとは、人間の髪の毛1本とほぼ同じか、数本分の距離に相当します。
こんなに長い距離でも、磁石の向きをそろえたスピンの情報は途中で壊れることがありませんでした。
これは、トポロジカルという特殊な数学的な保護の仕組みによってスピン流が守られているためで、多少の欠陥や障害があっても影響を受けないことを意味します。
研究者たちは、この頑丈なスピン流を「欠陥や障害に対しても頑強なトポロジカルに保護されたスピン流」と表現しています。
今回の実験で特に注目すべきは、従来の研究のように巨大な磁石を使った大がかりな装置が不要で、極めて小さなチップの上で全ての結果を確認できたことです。
これは、スマートフォンやパソコンなど私たちの身近なデバイスに応用可能なスピントロニクス技術が、現実味を帯びてきたことを示しています。
では、この発見は具体的にどのような技術や製品に応用され、私たちの生活を変える可能性を秘めているのでしょうか?
グラフェンが開いた「スピン流革命」

今回の研究によって、「巨大な磁石を使わず、グラフェンという極めて薄い材料の上で安定したスピン情報の流れを作ることが可能である」という画期的な可能性が示されました。
これは単に「磁石なし」でスピンを操れるという便利さだけではありません。
電子機器が抱えてきた発熱やエネルギーロスといった大きな問題を根本から変えてしまうほどの重要な発見なのです。
なぜそんなに重要なのか──それは、現代の電子機器が「熱」との戦いを続けているからです。