●この記事のポイント ・ディスコ、社内通貨「Will」を使った「Will会計」というユニークな管理会計手法を採用 ・社員は社内オークションで自身の意志で仕事を落札。Willを獲得して「収入」を増やし、賞与額が変動 ・各種業務の遂行のために必要な費用を従業員から募り、必要な金額が集まれば経営承認を経ることなく多額の費用を案件に投入
昨年(2024年)冬のボーナスの平均支給額が353万円(日本経済新聞社「2024年冬のボーナス調査」より)となるなど高額な報酬で知られる半導体製造装置メーカーのディスコ。同社は社内通貨「Will」を使った「Will会計」というユニークな管理会計手法を採用している。上司の指示に基づき業務を遂行する一般的な企業とは異なり、社員は社内オークションで公開された仕事のなかから自身の意志で仕事を落札し、仕事の出品者と希望者の合意によりWillの価格が決定。仕事を行うことでWillを獲得して「収入」を増やす一方、自分への人件費や備品使用料、他者への仕事依頼費はWillの「支出」となり、その「収入」と「支出」の差分=「収支」に基づき賞与額などが変動する。この制度により、社員は基本的には上司の指示ではなく、自身の意思に基づいて業務を選択・遂行することになる。4月10日付「日経ビジネス」ウェブ版記事によれば、この制度により年収4000万円を超える社員もいるとのことだが、人事・報酬制度として、どのように評価・分析できるのか。また、同社の好業績にどのように結びついているのか。専門家の見解を交えて追ってみたい。
●目次
社員の評価への納得感が生まれる
大手半導体装置メーカーであり世界シェアトップの製品も数多く持つディスコの業績は好調だ。2025年3月期連結決算の売上高は前期比27.9%増の3933億円、純利益は同47.1%増の1238億円で過去最高を更新。営業利益は1668億円であり、売上高営業利益率は42%にも上る高収益企業だ。
そんなディスコが導入しているのが前述の「Will会計」だ。同社はこれによって「イノベーションの活性化」「リソースの適正配分」「業務の洗練」「コスト意識の向上」「パフォーマンス向上」を実現できるとしている。
上記以外にも、個人Will 会計の収支に応じて配分される社内ポイントに基づく経費決裁権「DISCA」を使って、業務用の備品の購入などを上長の承認を介さずに決済することが可能。社内クラウドファンディング「Investment Box(IB)」で各種業務の遂行のために必要な費用を従業員から募り、必要な金額が集まれば経営承認を経ることなく多額の費用を案件に投入することもできる。
こうしたディスコの制度は、人事・報酬制度という面ではどのように評価できるか。人材研究所ディレクターの安藤健氏はいう。
「非常に優れた制度だと思います。人事評価制度というのは、全社員が納得できる評価基準を会社がつくることはできないといわれています。なぜなら、社員の行動をどのように評価するのかという基準は、基本的にトップダウンで会社が決めることが多いからであり、評価結果に納得できない社員も出てきてしまうものです。特に部門や職種をまたいで一律の評価基準を導入すると、人事や総務などバックオフィス系の部署は営業部署とは違ってわかりやすい成果が見えにくかったりするので、納得できない人が多く生じやすいです。一方、ディスコは全部門のあらゆる業務に“値付け”を行って相対化しているので、結果的に社員の評価への納得感が生まれていると考えられます」
こうした制度によって、どのような効果が生じることが期待できるのか。
「まず、社員が主体的に動くようになります。また、ディスコさんもいうように、社員が自分で自分のキャリアや働き方を選ぶことができます。高い報酬を得たい人は多くのWillを獲得しにいきますし、家族との時間が大切だという社員はWillを多くは獲得しないで業務量を少なくするということも可能です。このように主体的にキャリア形成ができるというのは素晴らしいことだと思います」