結果の概要: 食料品非課税の導入により、財政赤字は年約50兆円弱に拡大しますが、シナリオ2と比べればわずかに小さい赤字幅に留まります。国債残高は10年間で約600兆円増加し、2035年で約1,900兆円に達する見込みです。インフレ率への影響は軽微で、物価上昇率は概ね2~5%程度に収まっていると予想されます。軽減措置により2025年はベースラインより物価上昇率がやや低下(+2.0%程度)しますが、その後は日銀のインフレ目標(2%)をやや上回る水準で推移し、大きく跳ね上がる兆候は見られません。

評価: シナリオ3は3つのケースの中で最も穏当な結果となりました。消費税収の減少額が相対的に小さいため、財政への悪影響も限定的で、少なくとも10年程度のスパンでは「財政破綻」や「ハイパーインフレ」のリスクは高まらないと考えられます。インフレ率がやや目標を上回る水準で推移していますが、5%前後で安定している限り、深刻な通貨不安を招く水準ではありません。事実、日本は1990年代以降ほぼ一貫してデフレ~低インフレにとどまっており、4~5%の物価上昇はむしろ景気にとって許容・歓迎される可能性もあります。

もっとも、だからと言って安心はできません。歳出構造を変えずに赤字を垂れ流し続ける限り、債務残高は確実に積み上がっていくからです。10年で見れば1,900兆円規模ですが、さらに20年、このペースが続けば単純計算で国債残高は3,000兆円規模に達してしまいます。仮にその頃までインフレ率が5%程度で安定していたとしても、金利が将来にわたり超低水準に抑え込める保証はありません。国内で国債を消化できなくなれば、いずれは日銀の引き受け(マネタイゼーション)頼みとなり、最終的には他のシナリオと同様に通貨の信認低下→インフレ昂進という経路に陥るリスクが潜在します。

シナリオ3は「緩やかなゆでガエル状態」とも言え、短期的な危機は招かない代わりに、構造問題が温存される点で危うさを孕んでいます。したがって、現状の延長線上的な政策対応(例:一部品目の減税だけで抜本改革を先送り)では、いずれ遠くない将来にジリ貧となり破綻の火種を残すことを示唆しています。

通貨信認の行方:破綻への引き金とタイミング