言い換えれば、第三法則は第二法則の単なる延長線上にある理論的な帰結であり、実際には独立した新しい法則というよりも、第二法則の深い理解の一部だったのです。
ただし今回の理論的な分析だけで導けるのは、「絶対零度に近づくにつれてエントロピーがただ一つの値に収束する」ということまででした。
その収束するエントロピーの値が厳密にゼロであるということまでは、第二法則のみからでは証明できません。
実際にエントロピーがゼロに収束するという具体的な事実については、ネルンスト自身が示した実験的な観察結果(物質の比熱が極低温で急激にゼロに近づくという実験的事実)を追加で必要とするのです。
それでも今回の理論的な検証では、「熱力学第三法則」は第二法則に自然に統合されるものだという、明確な結論を導きました。
約120年にわたりネルンストとアインシュタインが論争し、物理学者たちを悩ませてきた熱力学第三法則を巡る理論的混乱は、ここにようやく一つの大きな収束点を迎えることになったのです。
第三法則が消える日――熱力学の教科書は書き換えられるのか?
今回の成果は、熱力学の基礎概念を見直す契機にもなりそうです。
著者は特に「温度」という概念の捉え方について言及しています。
私たちは普段、温度を「暑い・寒い」といった感覚的な尺度や、温度計の目盛りなどの経験的な数値として認識しています。
しかし科学的には、「温度」とは単なる感覚ではなく、物質の乱雑さ(エントロピー)やエネルギーの流れと深く関わる理論的な物理量です。
ネルンストやアインシュタインが論じた絶対零度という究極の温度は、単に「非常に冷たい」という感覚的な理解を超え、物質の運動が限りなく停止し、エントロピーが最小になるという理論的な極限状態として定義されています。
マルティン=オラヤ教授の議論は、温度の「自然な零点」を熱力学第二法則の枠内で定義し直すものでもあります。