マルチモデル戦略に行かざるを得ないマイクロソフト

 もともと生成AIの一スタートアップだったOpenAIが大きく成長して世界的に注目されるきっかけとなったのは、2019年からマイクロソフトから累計約2兆円もの出資を受けたことであった。マイクロソフトが初めてOpenAIに投資をしたのは19年。その金額は10億ドルにも上ったことでOpenAIは世界的に注目の的となり、マイクロソフトはOpenAIが開発するChatGPTに使用される言語モデル「GPT-3」の独占ライセンスを取得。23年にはマイクロソフトはChatGPTの技術を活用したAIアシスタントツール「Microsoft Copilot」をリリースするに至った。

 両社の戦略的パートナーシップは今後も継続される。2030年までの契約期間中、OpenAIの知的財産へのアクセス、収益配分の取り決め、OpenAIのAPIに対するマイクロソフトの独占権が継続されることが決まっている。

 そんな両者の間の隙間風がクローズアップされるきっかけとなったのが、今年4月、OpenAIがソフトバンクグループ(SBG)などから400億ドル(約6兆円)の出資を受けることで合意したことだった。両社はAI共同開発事業「Stargate Project(スターゲート・プロジェクト)」を推進するなど蜜月ぶりをみせている。

 マイクロソフトとの間の確執が顕在化しつつある背景は何か。報道によれば、OpenAIが買収を予定している米ウインドサーフのIP(知的財産)をマイクロソフトが利用することに、OpenAIが反対していることが対立を生んでいるという。マイクロソフトはOpenAIに多額の出資をする見返りに、OpenAIの所有するIPを使用する権利を持つ。また、OpenAIが5月に発表した組織再編をマイクロソフトが承認していないことも影響しているといわれている。

「世界中に大企業顧客を抱えるマイクロソフトは、顧客からクラウドサービスのAzure(アジュール)でOpenAIだけではなくてグーグルやメタ、中国のディープシークなども使いたいという要求を受けており、OpenAIだけを優遇するわけにはいかない。顧客に顔を向けたときに、さまざまな企業のAIモデルを使えるようにする必要があり、マルチモデル戦略に行かざるを得ません。

 一方、OpenAIが今、もっとも親密な関係を築いているSBGは、孫正義会長の直感に基づき、数多く存在するAIモデル開発会社のなかでOpenAIに賭けて多額の資金を出資したという側面があり、マイクロソフトとは経営の視線の先が異なります。こうしたなかでOpenAIとしては、『マイクロソフトがあんまりうるさく言ってくるなら、独禁法違反だと当局に告発しますよ』という姿勢をみせているのだと思われます」(湯川氏)

(文=BUSINESS JOURNAL編集部、協力=湯川鶴章/エクサウィザーズ・AI新聞編集長)