中性子が出ることで核のエネルギーは変化しますが、この影響がどこまで重要なのかはあまり知られていませんでした。
解析の結果、核が割れる際の破片の大きさの比率には多段階分裂はほぼ影響しませんでしたが、破片が飛び出すときの運動エネルギーには大きな影響を与えることがわかりました。
つまり、水銀核が割れる直前に中性子を出すかどうかは、「どのような速さで破片が飛び出すのか」という点に大きく関係していることが明らかになったのです。
これは実験で実際に測定できる指標であり、多段階分裂を調べる新たな手がかりとして注目されています。
水銀原子核が「頑固」な理由とは?核分裂研究の未来
今回の研究によって、「水銀の核が不均等に分裂する理由」が初めて明らかになりました。
その原因となったのは、核の中にある「殻構造」と呼ばれる特別な安定性が、高いエネルギー状態でも頑固に消えずに残るためでした。
一般的に核分裂では、エネルギーが高まるにつれて核の内部構造の影響は薄れ、均等に割れやすくなるはずです。
しかし水銀の場合は、まるで「割れにくい頑丈なクルミ」のように、その殻構造が最後まで強く主張し続け、大きさの異なる2つの破片に割れることになります。
つまり、水銀は軽くても原子核の中身が非常に頑固だったのです。
さらにこの研究では、これまであまり注目されていなかった「多段階分裂」も、核分裂にとって非常に重要であることが明らかになりました。
多段階分裂とは、核が割れる直前に中性子を放出し、エネルギーを一度失ってから改めて割れる現象ですが、この過程が特に破片が飛び出す際の運動エネルギーに大きな影響を与えることが分かりました。
これは、「破片がどれくらいの速さで飛び散るかを調べれば、核が中性子を放出したかどうかが分かる」という、新しい分析方法につながる可能性があります。
また、この研究から意外な新発見として、「スーパー・ロングモード」と呼ばれる特殊な核分裂の形態が、水銀180には全く見られないことも分かりました。