核分裂は、原子核がいくつかの小さな破片に分かれる現象です。実はこの「分かれ方」には、大きく分けて2つのパターンがあります。それが「均等分裂」と「不均等分裂」です。ウランやプルトニウムのような重い元素の場合、よく知られているのは「不均等分裂」です。つまり、できる破片の大きさがだいぶ偏っていて、一方が大きく、もう一方は小さいというタイプの分裂をします。これはなぜでしょうか?
実は、原子核の中では陽子や中性子がある「特別に安定な配置」を好んでいて、これを殻構造と呼んでいます。核の内部は、ピーナッツの殻のようにいくつかの殻が重なり合っていて、特定の数(魔法数)の陽子や中性子を含むとき、核は非常に安定してエネルギーが低くなるのです。ウランなどの重い原子核が分裂するときは、「魔法数」を含む安定な中くらいの大きさの破片ができやすいため、自然ともう片方が小さくなり、バランスが崩れて不均等な分裂が起こります。
一方、水銀のような比較的軽い元素の場合は、一般的に「均等分裂」が予想されています。これは、核がそこまで大きくないため、殻構造の影響よりも液滴のような性質(液体が引っ張られてちょうど真ん中で割れるイメージ)が勝つからです。このため左右ほぼ同じ大きさに均等に割れるはず、というのがこれまでの常識でした。
ところが2000年代に行われた実験で、水銀の中でも特に珍しい「水銀180」というタイプが、まるで重元素のように「大小の破片に偏って」割れるという予想外の結果が得られました。
この「二峰性」と呼ばれる特殊な分裂パターンは、従来のモデルではまったく説明がつかず、核物理学者たちを困惑させ、長年にわたる謎となっていました。
水銀180とは?
「水銀180(¹⁸⁰Hg)」という名前を聞いても、ピンと来ない人がほとんどかもしれません。実は、水銀にはいくつかの種類(同位体)が存在し、そのうちの一つが水銀180なのです。水銀は通常、室温で液体の金属としてよく知られています。普通に私たちが目にするのは「水銀202(¹⁰²Hg)」や「水銀200(²⁰⁰Hg)」などの安定な同位体ですが、水銀180は自然界にはほとんど存在しません。実験室などで人工的に作られ、寿命も短いため、普段の生活ではまず見ることはない珍しい存在です。