ここで注意しなければならない点は、上記の「利用可能な証拠」とは、中国側がWHOに提供した情報を意味し、中国側が主張する「人獣共通感染説」を裏付けている一方、、武漢ウイルス研究所(WIV)起源説では「中国側が情報を提供していないので結論付けることはできない」ということだ。すなわち、中国当局は自身の説を裏付ける情報だけをWHOに提供し、それに反する情報は隠蔽しているというわけだ。中国側がWIV発生説に関連する情報の提供を渋っているということは、WIV発生説が正しいことを間接的に裏付けることにもなる。

実際、オーストリア国営放送(ORF)はSAGOの報告書について、「中国、コロナウイルスに関する情報を隠蔽」という見出しで報じている。この受け取り方はSAGOの報告書のポイントを突いている。

なお、SAGOは2022年6月9日に報告書で初期の調査結果と勧告を発表した。今回の報告書は、査読済み論文やレビューに加え、入手可能な未発表情報、現地調査、インタビュー、監査結果、政府報告書、情報機関報告書などのその他の報告書に基づいて、その評価を更新したものだ。

南アフリカのウィットウォータースランド大学の特別教授でSAGO議長マリーティ・ベンター氏は「新型コロナウイルスの起源問題は単なる科学的な取り組みではなく、道徳的かつ倫理的な責務だ。SARS-CoV-2の起源とそれがどのようにパンデミックを引き起こしたかを理解することは、将来のパンデミックを予防し、人命と生活を救い、世界的な苦しみを軽減するために不可欠だ」と述べている。

WHOは「SARS-CoV-2の起源を解明するための作業は未だ完了していない。WHOはCOVID-19の起源に関するさらなる証拠を歓迎しており、SAGOは新たな情報が得られた場合には、引き続きその検討に尽力する」と述べている。

ちなみに、SAGOのメンバーは27人の科学者で構成されており、2021年からウイルスの起源に関する問題に取り組んできた。委員会のメンバーのうち、中国、ロシア、カンボジア、ブラジルの4人の科学者は今回のSAGOの報告書の著者として名を連ねることを拒否している。