80年前に誕生した国連憲章は「第2次世界大戦後の混乱の中、大恐慌とホロコーストの傷跡を負い、国際連盟崩壊の痛ましい教訓を学んだ世代によって制定されたもので、新たな世界的協定を象徴する」が、21世紀を迎え、その改革が急務となってきている。
グテーレス事務総長は「国連憲章は単なる羊皮紙とインクの文書ではない。それは、諸国間の平和、尊厳、そして協力という約束だ。憲章は始まりに過ぎず、世界が日々実践しようと努める理念と原則を定めたものだ」と強調し、国連憲章の死文化に警告を発している。
世界中で戦争や危機が発生している。ロシア軍が2022年2月、ウクライナに侵攻し、これまで数万人の犠牲者、負傷者が出ている。イスラム過激派テロ組織「ハマス」のイスラエルでの奇襲テロを契機に、イスラエルとハマス、そしてイランとの戦争が起きたが、国連は戦争・紛争の解決にほとんど関与できず、蚊帳の外にいる。国連への信頼度は地に落ちてしまった。
ところで、欧州連合(EU)で新規加盟国を求めた拡大政策が叫ばれた時、一人の政治家が「加盟国は増えればそれだけ、その組織の行動力、結束力は弱まる」と述べていた。国連は80年前の国連発足当時は50カ国に過ぎなかったが、現在193か国の加盟国だ。193カ国の加盟国を抱える国連は193の異なる国益外交の衝突の場となってしまっている。
その一方、世界最強国・米国の国連離れが進む一方、国連内での中国の影響力が急速に拡大している。中国共産党政権は国連専門機関のトップポストを掌握するなど、その影響力は国連最上層部までに及ぶ。例えば、グテーレス氏は中国のウイグル民族に対する中国共産党政権の弾圧政策を厳しく批判したことがあったか。法輪功信者への強制臓器摘出問題に対して北京を追及したことがあったか。大国間の利害調整は重要だが、中国の人権蹂躙問題に対する事務総長のスタンスは過去、揺れてきた。
国連改革と言えば、安全保障理事会の改革を意味することが多い。ロシアと中国の2カ国と米英仏の3カ国の常任理事国が対立している現時点では、世界の紛争は解決できない。対立を調停し、妥協可能な解決策を見出すためには、安保理改革だけではない。国益を超えた明確な理念を提示する必要がある。共生、共栄、共義の世界実現の為の理念だ。そこで共通の価値観を有する新しい国際機関の創設という案が飛び出すわけだ。