米国の富裕層が子どもにかける教育費用は過去24年で5.6倍に増え、子ども1人につき総額170万ドル(約1.9億円)を超えているという。米国の親が負担する教育費の平均と比べると、約30倍の金額だ。

富裕層家庭の教育はプリスクール(就学前)から始まっており、名門小学校の受験指導コースや外国語、音楽、アート、スポーツなど、義務教育や大学以外にも惜しみなくお金を投じている。

過去44年で大学費用は9~10倍に

「富裕層=エリート大学」という図式が世界中で定着しているが、エリート大学に子どもを入学させるために、お金持ちはいくら教育に投資しているのだろう。

米生活情報誌「タウン・アンド・カントリー」が2017年6月28日に発表した調査結果によると、1973年の教育費は子どもが生まれてから大学を卒業するまでで総額30万ドルだった。しかし、2017年は170万ドルまで増えている。

物価上昇率を考慮する目的で過去・現在の大学費用を比較してみると、ハーバード大学、イェール大学、ブラウン大学などの1973年度の学費は年間5000ドル前後、ペンシルバニア大学は3000ドル前後だった。2018年度にはハーバード大学 が4.6万ドル、イェール大学 は5.3万ドルと9~10倍に増えている。大学の学費が全体的な教育費用を押し上げているのは、富裕層も庶民も変わりないようだ。

受験に備え、就学前から9.9万ドル投資

しかしお金がかかるのは大学だけではない。富裕層の教育投資は、子どもが保育園や幼稚園に通う前から始まる。専門家の指導の元、プリスクール(就学前)から受験に向けて準備する親が多いようだが、例えばニューヨークのプリスクール、アリストテレス・サークルは、1時間の指導で250~450ドルかかる。10時間コースなら4500ドルだ。

3~4歳を対象とする保育園の名門ホーレス・マン・スクールで年間3.4万~4.7万ドル。2年間通わせると、お受験準備10時間分と合わせて7.3万~9.9万ドルが就学前から必要になる。

ここからが教育投資の本番だ。米国の教育システムは州によって異なるが、基本的には保育園・幼稚園後、5~18歳の期間 は日本の小・中・高等学校に値する義務教育を受ける。その後、大学や大学院に進学する。

5~9歳にかけて、シカゴのフランシス・パーカー高等学校の幼稚園~下級部に通わせると年間3万~3.2万ドル。10~14歳はミルトン・アカデミーで年間3.5万~4.3万ドル。14~18歳はハーバード・ウェストレイク・スクールで年間3.9万ドル。

義務教育以外の習い事や補習授業も重要だ。4歳でディラー・クエール・スクール・オブ・ミュージックのレッスンを受けさせると年間3万ドル。義務教育期間を通して外国語の個人指導を受けさせると総額10万ドル。

8~18歳にかけてスポーツを習わせると、NYCジュニア・バレーボール・クラブで総額5.7万ドル。8~17歳の数学の補習レッスンは総額8万ドルなど、例を挙げると切りがない。

そしていよいよ大学費用となるわけだが、独り暮らしや寮生活を始める場合、それの費用が学費に上乗せされる。その結果、22歳になるまでに投じた教育費は、総額171.5万ドルを超えるという。

富裕層の親は30倍教育に投資?

こうした数字はあくまで一例でしかなく、実際の額は家庭によってかなり差がでるだろう。また教育に湯水のごとくお金を費やしたからといって、エリート街道が保証されているわけでもない。

しかしホーレス・マン・スクールのように、保育園から入園している生徒は小学部にエスカレーター式で進学できるなど、幼いうちにエリートの門をくぐらせておくことで、将来差が付きやすい環境が定着している。(ビジネスインサイダー2017年12月1日付記事 )。

これに対し、米国の親が子どもの小学校~大学卒業までに使う教育費は、平均5.8万ドルであることが、HSBCの調査から明らかになっている。調査は、米国・英国・中国・シンガポール・カナダなど15カ国の8400人以上の親を対象に行ったもので、学費や書籍、通学費、寄宿費を含む(CNN2018年6月29日付記事 )。単純計算すると、富裕層の親は庶民の親のおよそ30倍の教育費を子どものために使っているのだ。

高・低所得家庭の子どもの数学・読解力の差が拡大

これだけの教育を受けている子どもとそうでない子どもに、成績に差がでるのは不思議ではない。「一般的に、裕福な家庭の子どもは低・中所得家庭の子どもより学校の成績が良い」といわれる所以も、経済的な要因が生みだす教育や家庭環境の差が影響しているのではないか。

裕福な家庭の子どもはまだ言葉もおぼつかない早い年齢から、保育園も含め様々な刺激や教養にふれる機会を与えられているが、特に低所得家庭の子どもは経済的な理由からそうした機会を逃す傾向が強い。また数学と読解力の差は1970年以降拡大しているという(ワシントンポスト2017年9月26日付記事 )。

日本でも子どもの貧困問題が深刻化しているというが、アメリカでも家庭の経済状況による教育格差が幼少期から始まっているようだ。

文・アレン・琴子(英国在住フリーランスライター)/ZUU online
 

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